『セブン・シスターズ』95点 男子の大好きな質感&完成度(※ネタバレ感想)
一人っ子政策を強いる超管理社会を舞台にしたSFスリラー。
月曜日から日曜日までそれぞれが曜日の名を冠した7姉妹。
子どもを1人しか持ってはならず、2子以降はコールドスリープを受けて家族から引き離される社会で彼女たちは、1人の人間カレン・セットマンとして暮らしていた。
その方法は、自らの名前と同じ曜日ごとにまったく同じ容姿にメイクアップし、人格や記憶も映像と演技を駆使して一致させるというもの。
そうして銀行員として出世コースに乗っていた姉妹だったが、ある日、出勤した月曜日が帰ってこないという事態が発生。それを皮切りに秘密を知った「児童分配局」に命を狙われることになる――。*1
全体(超掘り出し物、男子のツボを的確についてくる名作)
最初はあんまり期待していなかった。
上映館数も少ないし、公式サイトの小島秀夫氏(『メタルギアシリーズ』を生み出したゲームクリエイター)の言う通り*2、「最近『ブレードランナー2049』も観たところだし、もうディストピアSFはおなかいっぱいだよ!」と思っていたからだ。
しかし、最後まで見てみると、えらくおもしろかったのである。
冒頭のディストピア世界の説明の方法や映像の質感はまさに量産型ディストピアSFを想起させたが、7姉妹が登場してからは一転! 非常にハードでソリッドなストーリーが、アクション・謎解きを伴ってグイグイ進められていくのである!
とはいえアクション多めな佳作に過ぎないし、「結構主要キャラが無情に殺されるからちょっと食い足りない感はあるなー」と、後半30分くらいまでは思っていた。
しかし!
ラスト30分で明らかになる真相と伏線、そのテーマとのつながりには思わず腕を組んだままチネ・ラヴィータ仙台の椅子にもたれかかって「やば、面白いなこれ」とつぶやいてしまった。*3
最近見た映画の脚本の中でも恐ろしく隙の無い、練りに練られた名作だった。
7姉妹を演じ分けたノオミ・ラパスと魅力的かつ個性的な衣装づくりを行ったデザイナー人にも東洋の一凡人から賛辞を贈りたい。
良かった点
1.明らかに面白そうな設定
一人っ子政策ディストピアで7姉妹が1人を演じる、という設定の時点かなり面白そうっぷりはほかの映画の中でも際立っている。まずこの映画に目を付けたのも、その奇抜な設定を映画館のサイトで目にしたからであった。
とはいえ、設定が面白そうで実際は微妙なSFなんてはいて捨てるほどある。例えば『T●ME』なんて25歳で成長が止まって時間が通貨になる世界という設定はめちゃくちゃ面白そうだったのに、期待を上回ることはなかった。
そこでもうひとねりもふたねりもしているのがこの映画の偉いところである。
2.ハードな死生観※めちゃくちゃネタバレです。
この映画、味方(7姉妹)もどかどか死ぬ。
最終的に生き残るのは、2人だけなのだ。
一番悲惨なのは水曜日だろう。
さんざん敵から逃げ切っておいつめられた屋上から隣のビルに飛び移れば助かる――という王道展開。これまでの鍛錬を信じて飛び上がったところを、隣のビルに駆け上がった自動分配局の掃除人統括者(クリスチャン・ルーベック)に撃たれ、命乞いの間もなく転落死してしまうのだ。
ほかにも処女を失った翌日の土曜の死なんてのも悲惨で容赦ない脚本家の死生観が垣間見えた。
キャラが死んでしまえば後には登場しえないわけで物語(キャラ萌え)的には損でもあるのがだが、とかく主要キャラだけ神(作者)の見えざる手によって生かされがちな映画作品において主要キャラにも平等に死のルールが適用されるのは論理的に納得のいく展開であり、痛快でさえあった。
3.無駄のない脚本
とにかく観客を飽きさせない工夫をまっとうに積み上げた作品だと思う。
アクションの中で話の全体像を明らかにしていき、登場人物に見せ場を作りつつ物語を鈍重にする「過剰な嘆き」や「馬鹿な行動」は使わない。
中盤当たりではきっちりおっぱいも見せてPG-15作品にちょっとだけ我々が抱く期待をかなえてくれる。
ああ、これ男の子の好きな話だな、と感じた。
2で書いたハードな死生観といい、キャラの心情表現や魅力よりも作劇的一貫性や展開の論理を重視して作られている。
まあ公式サイトでLiLiCoやサヘル・ローズがコメントしていることからも女性にも刺さる物語であるのは明らかだが、より男子に刺さる話だと、俺の霊感がささやいている。この作品をブラック・リスト入りさせて映画化に持ち込んだマックス・ボトキン(脚本/共同プロデューサー)には今後も注目していきたい。*4
残念に思った点
1.よく考えたら…なずさんさ
ほぼないが、しいて言うなら、7姉妹が1人を演じ切るって相当本気出さないと無理あるだろ! あれでいいのか?
公式サイトでもコメント*5されてるけど、水曜日だけ体鍛えてたら他と体形変わってきてばれるだろ!
1人が指失ったからほかの曜日の指も切り落とすっていう爺の判断もイカれてる。かけた指の方を義指でごまかすとかその曜日だけ外で出るのを禁止するとかでいいだろ!(ただ、これが中盤のアクションシーンの熱い伏線になっていたりもする)
…とはいえ、こんな欠点は制作人は気づいてそう。ここは残してもメリットの方がデメリットを上回ると判断したんでしょう。
総括
100点くらいの完成度を感じた。
少なくとも、これをブラッシュアップしてより面白くしてみろよ、と監督に言われても俺は何もできない。
公開館数が少ないのだけが不思議な点なので、世の中の人はもっと見に行けばお得だよ、と思います。