『シェイプ・オブ・ウォーター』90点 水の形を描く方法
君は、水の形を知っているかい?光の形は?
風の形は?そして、世界の形は?
知らないなら、受け入れればいい。
因みに君は、愛の形を知っているかい?『シェイプ・オブ・ウォーター』公式サイトより
サイトを見てもらえばわかると思うが、俺はCharaもどうかと思う。
まあでも,、これほど気障なセリフを吐きたくなる気持ちもわからないでもないのだ。
それくらいベタで王道な物語なんですよこれは。
監督の発言から「美女と野獣」と比べられる声が多いようだけど、ある意味それくらい甘いディズニーアニメみたいなお話なのだ。
所感―なるほどこれは王道だ
何が甘いって、本当に「主人公と異形の者の愛に始まり、愛に終わる物語」だということだ。
むしろ、それ以外は描かれていない。
一応、米ソの宇宙進出争いが背景にあるのだが、そんなものお伽話の道具立てでしかないかなり戯画化されたものだ。
その背景にあるのは、アカデミー賞大本命となっていることもうなずけるストレートなメッセージ。昨今の台風の目であるポリティカル・コレクトネスについて。
主人公は唖者で、同居人はゲイ。友人は黒人で、想い人は異形のものなのである。
ここまでイデオロギー性があると説教臭さやヤダ味がありそうなものだが、不思議とそれが感じられない。
それらを鑑みると、この作品がアカデミー作品賞大本命なのは実はそれほど驚くべきことではないのかもしれない。
ストーリー
1962年、アメリカ。政府の極秘研究所に勤めるイライザは、
秘かに運び込まれた不思議な生きものを見てしまう。アマゾンの奥地で神のように崇められていたという“彼”の奇妙だが、
どこか魅惑的な姿に心を奪われたイライザは、周囲の目を盗んで会いに行くようになる。子供の頃のトラウマで声が出せないイライザだったが、
“彼”とのコミュニケーションに言葉は必要なかった。音楽とダンスに手話、そして熱い眼差しで二人の心が通い始めた時、
イライザは“彼”が間もなく国家の威信をかけた実験の犠牲になると知る─。『シェイプ・オブ・ウォーター』公式サイトより
良かったところ①「大人の」童話
前述のとおりアカデミー好みなメッセージ性を正しすぎるのにも関わらずこの作品が偽善的なオハナシとして観客の目に映らないのは、あくまで主人公と異形のものの愛を描くことだけに徹底した大人なバランスがあるからだ。
人物配置には意図が感じられるとは言え、物語の中で登場人物がテーマめいたものを話させられていると感じる場面はまったくない。
この話で最もそれに近しいのは主人公が異形の者を救う手伝いを同居人ジャイルズに依頼する場面だろう。「声の出せない私と異形の者である彼。どこが違うのか。彼を見殺しにするということは、私を殺すということではないのか」手話で必死に伝えるサリー・ホーキンスの演技が光る場面だ。
しかし、これは声が出せないまま行き、やっと愛するものを見つけた彼女の叫びとしては至極真っ当なもので、物語上の都合だけで話されているやな感じがしない。
また、この話には笑える場面も多い。
悪役ストリックランドと妻のセックスシーン。股間の白ボケを君は見たか?
ハゲを気にするジャイルズが異形の者のヒーリングパワーを期待する場面も、別れのウエットさを見事に脱臭してくれている。
主人公のオナニーシーンが冒頭にあるのも良い。性欲もある一個の人間が同じ境遇にあるものを恋愛感情込みですくいたいと考えている。
それはエゴだが、それゆえに信用できるのである。
良かったところ②ストリックランドの魅力
悪役ストリッグランドを見て思い出したのは映画史上屈指の名悪役『レオン』のノーマン・スタンスフィールド(ゲイリー・オールドマン)だ。
演じるのはマイケル・シャノン。『マン・オブ・スティール』のゾッド将軍役。
安物の飴を薬のように常備し、トイレでは用を足す前にしか手を洗わない。
家庭では良き父ながら、職場ではイライザを襲おうとする。
その気持ち悪さが、悪役としてちょうど良い。
なんというか、ちょうど現実離れしているのだ。
だからこそ、この話の世界観にピタリと当てはまる。
アカデミー助演男優賞にノミネートされるのは、リチャード・ジェンキンスもよかったけど、マイケル・シャノンじゃないかなあと個人的には思った。
もちろん、『ドリーム』『ギフテッド』など昨今の話題作で必ずと言ってよいほど好演を残しているオクタヴィア・スペンサーも良かった。
また亭主がほんとに情けないんだ。
おとぎ話なところたち
結局この話はどこがおとぎ話なのか、ポイントを列挙してみよう。
・映画全体の絵が華やかでテーマパーク的
・衣装が背景とマッチしていてかわいい
・秘密情報機関がマンガ的
・水のなかのシーンが幻想的
・仕事が楽そう
・子猫がかわいい
こうして考えると、美術がそのおとぎ話っぷりに大きく寄与していたことがわかる。
むろん、アカデミー美術賞・衣装デザイン賞にもノミネートされている。
やや?なところ
主人公と異形の者がいつ恋に落ちたかと異形のものの異常な回復力についてはやや疑問が残った。
ちょっとだけ意思疎通できるとはいえ、異形のものの知能は5歳くらいの感じではなかったか? セックスはできていたけど。
とはいえ、同じ境遇ということでイライザは自分を重ね合わせたということかな。
また、異形のものが電気びりびり棒で痛めつけられたときは相当弱っていたのに拳銃で胸を撃たれてもすぐ回復したのはやや納得がいかない。あ、ポケモンでいう水タイプということかな? 確かに少しシャワーズに似ている。
おそらく濡れているときはパワーがより強いということだとは思うけれども。
教えてほしいところ
主人公と異形なものが映画館で抱き合う場面で流れていた映画。エジプトかどっかで奴隷が労働させられていたけどあれはどういう意図で流されていたんでしょうか? マイノリティの悲哀ということ?
まとめ―水の形を描いたような
この映画は高いところから低いところへ流れる水のようにストレートな愛の話だ。
話の筋だけ見れば非常に単純で、どこにでもありそう。
でも、今までなかった。
それは大人のおとぎ話で愛を描くというのが、つかみどころのない、バランス感覚が非常に必要な作業だったからだろう。
それをギレルモ・デル・トロは描いたのだ。
まさに、水の形を描くみたいに。