『レディ・プレイヤー・1』100点 ありがとう! 僕らのポップカルチャー
※ネタバレがあります
『レディ・プレイヤー・1』面白過ぎて泣きそうになった。別にガンダムもゴジラも見たことないけど、何か奇跡的な祝祭が観れているぞと感じた。ありがとうスピルバーグhttps://t.co/Ldco80UNTo
— 遠縁の親戚 (@miya080800) 2018年4月22日
俺はオタクではない、と思っていた。
深夜アニメを楽しみに見た経験がほとんどないし、ガンダムも特撮もハマらないし、好きなものに金ジャブジャブ使えないし。
結局のところ素晴らしい文化や誰かの素晴らしい才能よりも、作品に投影される自分の虚像が一番好きだし。
でも、そんな自分でも「なにか、今大勢のタスキをつないでできた1つの奇跡的なエンターティメントを目にしている……!」と涙しそうになった。
孤立無援のサブカルに、オタクの血が流れていたのだ。
(あるいは、サブカルもオタクの1種でしかないということかもしれない)。
それだけで、100点! 5億点!
ストーリー
西暦2045年。1部の企業のみが富を握り、多くの庶民は狭いアパートに押し込められ貧しい生活を送らざるを得ない。だが、人々は何でも実現可能な仮想空間”オアシス”に夢中の人生を送っていた。
天才工学者ジェームス・ハリデーが設計したオアシスには、3つの鍵――<イースターエッグ>(ゲーム内の隠しアイテム)――が隠されている。その3つを手に入れたものはハリデーの全財産56兆円とオアシスの支配権が与えられると、亡くなった日に発表された映像の中で、ハリデーはいった。
それから数年、ハリデーの謎は1つも解かれていない。
そんな中で本気でゲームクリアを目指すのは、利益集団である企業―101のシクサーズ―か、イースターエッグを狙うもの、ガンターだけだった。
主人公、ウェイド・ワッツもその1人。コロンビアの狭い叔母の家の中、乱暴な情夫にいびられながら、彼は、ゲームの中で、クリアをあきらめず目指す。そんなある日、第一のカギにつながるといわれるレースゲームで、ウェイドは有名な「シクサーズ」殺し、”金田のバイク”に乗った「アルテミス」を見つける。それは、彼にゲーム攻略のヒントを与える大きな出会いとなるのだった――。
所感――これは万人向けの”エンターティメント”だ
原作はアーネスト・クラインの小説。
各所でいわれていることだが、版権ネタ満載のため、スピルバーグというレジェンドが看板とならなければ、そもそも企画自体が成り立たなかった一品。
「映像化不可能」といわれるものほど映像化される法則あるな、コレ。
ただ、俺はその小ネタに感動したわけではない。
もちろん、多くの感想で書かれているように「ガンダム×メカゴジラ」はおお、熱いなと思ったし、「ビートルジュース」がわかったときはうれしかった。「シャイニング」も、双子のシーンが出てきただけでニヤニヤしてしまった。
でも、それはあくまで二次創作的な喜びであって、ファンアートやソシャゲのコラボ企画でも満たされる欲求だ。
そうではなく、ゲームの中に入り込み、ミッションを達成するというだけの話を、”面白いアイディアの数珠繋ぎ”にするための工夫が随所に仕込まれていて、まったく手が抜かれていないのが良かった。
まず、ミッションの構成。
第1のミッション:レースゲーム
第2のミッション:館探索ゲーム
第3のミッション:ゲーム内ゲーム
原作からそうなのかもしれないが、動→静のミッションへという構成がうまい。
派手なアクションでまずは引き込み、徐々に静的なゲームへと引き込んでいく。そして、最後はゲームをしている主体=主人公という状態でオトす。
オタク層にとっては自分をどんどん主人公と重ねていける理想的な構成だし、アクションから徐々に純ゲーム性を高めていくのは、ライト層にとっても親切だ。
また、ミッション外の空間のデザイン。
それは、実際のところあまりきちんと描かれていない。図書館、集会場、様々なキャラが闊歩するエントリーロード、家。しかし、それは、このゲームのオープンワールド性を強調し、現実の世界のゴミゴミした様子と対比されて、まさに”オアシス”であることを表すのだ。
それに、映画の中でゲームという形で映画の世界に入り込むとか、制作者の全時間が360°記録され、自由に閲覧できる図書館とか、作中のガジェットのワクワク感もつるべ打ちでサンドされている。
「”オアシス”に実際は入れたら何をする?」という質問にスピルバーグは以下のように答えた。
作中で『シャイニング』の世界に入っているように、映画の中の世界に入りたい。ただし、自分は役者ではないので、椅子や壁として、別の視点で物語を眺めたい。
ありきたりでなく、また制作者にふさわしい完璧な回答だ。設定に対して”一番ワクワクできる使用法”を考えられる才能、つまりはエンターティメントの才能が本当にある人なんだなあ、と思う。
挙げたような美点は決して小ネタや知ってる人の共感だけ狙って成立するものではない。まず、真っ当にこの素材を使って人を面白がらせるにはどうすればよいか、ということが考え抜かれていると思う。とはいえ、そういったファン向けのサービスもきっちりやり抜かれているのがすごい。その点については多くの記事で元ネタ集などがまとめられているだろうから深くは言及しない。
どういう集団なんだ、101
では、この作品が全く粗のないものかというと、そうではない。
まず、主人公たちトップ5が全員近所に住んでいるというのは奇跡が過ぎる。
それに、ウェイド・ワッツは実はオタクが共感できるような主人公ではない。ゲームに関する知識は並大抵ではないし、ソレント(敵の親玉)の嘘を見破る洞察力もずば抜けている。また、パスワードを覚える記憶力もあるし、格闘術にたけた殺し屋を蹴り飛ばせるだけの運動能力もある。
かなりの完璧超人なのだ。
それに彼は今まで育ててくれたおばさんの死をほとんど悲しみもしない。はっきり言ってサイコパスだ。それほど、精神すらも鉄壁ということでもある。
極端に言ってしまえば、完璧超人が都合よく才能を発揮して世界のすべてを手にする話である。
また、敵の設定もよくわからない。どういう悪い集団なんだ、101。ソレントはその中で上に立つだけの思慮深さや頭脳があるとも思えないし。
あれだけのビジネスマン・オタクが集まって第1の試練すら解けなかったというのもバカすぎる。普通1ヶ月以内に試すだろ。
でも、それらすべてがこの物語の面白さを阻害しない。どころか、十全に設定とストーリーの良さを発揮させるためには最善手だったのではないかと思える。
2時間弱で世界を変える主人公は完璧超人であるべきだし、オアシスの中のセカイの広さと対比するには、現実世界は狭いくらいでちょうど良い。この物語において、真の敵とは、ゲームの攻略だ。101はその道のりを阻害する文字通り雑魚キャラに過ぎない。とすれば、主人公たちを脅かすほどの脅威ではないことにも必然性がある。
とにかく、粗はあるが、それはツッコミどころではあっても、物語の面白さを何ら阻害しないのである。
女はハマらない?
ここまでほめそやしてなんだが、この映画、女は好きじゃないらしい。
とはいっても、サンプル数1なのでまったく一般化はできないのだが、確かに一理あると思ったのでその発言をメモしておく。
「私はそれほど面白くないと思ったな。しかも、それには明確なストーリーの粗とか理由があるわけじゃなくて、世界観や目指すものが、純粋なオタク男子の夢過ぎて付き合いきれないというか。。。」
「この感覚が、何に似ているかっていうと、GANTZに似てる。いやまあ確かに設定とかゲームっぽいところとか似てるんだけど、そうじゃなくてもっと深いところでどうしてもハマれない。」
「それに、主人公とかそのほかの面々はさえないのに、ヒロインはかわいいのがムカついた。それもオタクの夢性が強すぎるというか。もちろんトシロウもイケメンなんだけどね。」
タラレバ娘の『ダークナイト論争』を思い出した。何となく好きになれないんじゃ、暖簾に腕押し。糠に釘。でも、GANTZに似ているというのはなかなか鋭い指摘だと思う。
彼女は『キングスマン』(2014)『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)『バーフバリ』(2017)は好きなのだという。
それらと『GANTZ』『レディ・プレイヤー・1』の違いは何なのだろう?
主人公の肉体性か?
見事なバランス感覚に100点
この物語のラストのセリフは、『だって、リアルこそが本当の意味でリアルなんだから』。
虚構の中でヒーローとなった主人公が現実の大切さを語ることで、「結局現実に向き合えないオタクのたわごとじゃねーか」という批判を見事にかわしている。
そこが周到過ぎて逆に嫌いという向きもあるだろうが、このバランス感覚が俺は好きだ。
とにかく、これ以上のバランスは考えられない。アクションとストーリーのバランスも、ケレン味とリアリティのバランスも、スピルバーグのフィルモグラフィにおける『ペンタゴンペーパーズ』(社会派)と『レディ・プレイヤー・1』(エンタメ)のバランスもそうだ。
そのバランス感覚は、100点だ。
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