裸で独りぼっち

マジの日記

『ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル』65点 ヒト(1)味足りないハムのよう

ジュマンジは、ウインナーだ。

子どもたちはみんな大好き。ジューシーで、パチンとはじける歯ごたえが心地よい。

 

ジュマンジ第一作はボードゲームが現実になるという設定、その活かし方に至るまでまさに子どもの理想を体現した映画だったと思う。

 

翻ってこの続編『ジュマンジ・ウェルカム・トゥ・ジャングル』。

薄っぺらいハムである。

 

もちろん味は子どもの好きなように配慮されているし、マヨネーズとかかけりゃあ美味い。なんだけど、それ単体では食いっぷりが足りない。

 

ブレックファストとしても中途半端すぎるぜ。

 

ストーリー

ゲームを現実の世界に顕現してしまう恐怖のゲーム、ジュマンジボードゲームからTVゲームに姿を変え、子どもたちを新たなゲームへ引き込もうとしていた。

そんなゲームの中に、4人の少年少女が取り込まれ、さらに姿・能力が変容してしまう。

1.主人公であり勉強がとりえのオタク少年、スペンサー

ドウェイン・ジョンソン演じるマッチョでセクシーな冒険家、スモルダー・ブレイブストーン博士。スキルはブーメランにセクシーフェロモン、マッチョなパワー。弱点はなし。

2.アメフト部の選手で勉強は苦手、スペンサーに勉強を代行させる黒人の幼馴染、フリッジ

→ネズミと称されるブレイブストーン博士の助手、ムース。スキルは荷物運び、動物学。弱点はスピード、ケーキ、強さ。

3.恋に夢中で勉学はおろそか、テスト中でも友達と電話する女子オブ女子、ベサニー

→小太りの考古学教授、”シェリー・オベロン”。スキルは地図の読解、考古学。弱点は持久力。

4.勉強第一の合理主義、スペンサーがひそかに思いを寄せる偏屈女子、マーサ

→セクシーな容姿と体術が魅力の女性冒険家、ルビー・ランドハウス。

彼らはゲームの最終目的―宝石を悪役キャラヴァン・ペルトから奪還し、元の場所へ帰す―を達成し、無事に元の世界へ戻ることができるのか?

 

 

 

所感――一味足りない

全米でファミリー層を巻き込んで大ヒットしているようである。

 

だが、俺は物足りないと思った。作品のゲーム感は古いし、人間の描きこみは浅いし、ストーリー的なひねりもないし。

もちろんキュートで面白いシーンも多数見られた。

 

ワイルドスピード』シリーズでおなじみ、ドウェインジョンソン=ロックさまの童貞男子的発言、挙動、表情ギャグ。MCU作品でもおなじみのカレン・ギランによる世にも下手糞な誘惑。その2人のあまりに”ロマンチックでない”キス。

 

ただ、これらは「ジュマンジ」の面白さではなく、入れ替わりコメディの面白さなのだ。それこそ、サラデー・ナイト・ライブでやっても同じようなものが作れそうな。誰もが知っている有名人がそのセルフイメージを反転させた演技を見せて笑いを取るというのは年末の『笑ってはいけない』で「梅沢富雄がレイザーラモンHGをやった」的な笑いであり、テレビの笑いだとおもう。もちろん、雄々しい黒人マッチョという万人に通じるイメージの斑点という意味合いはあるにしてもね。

 

ココ、ヒト味足りない①キャラの描きこみ

この作品の脚本制作にスクールカースト物のパイオニア『ブレック・ファスト・クラブ』(1985)が大きく影響を与えたことは有名だが、1つ決定的な違いとして個性の描きこみの多様さがあげられる。

 

ジュマンジ2』はスペンサー(オタク)、フリッジ(ジョック<体育会系>)、ベサニー(クイーンビー<リア充>)、マーサ(がり勉)の4人にプラスして1996年に引き込まれた飛行機乗りアレックス=シープレーンがあげられる。

 

それに対し、『ブレック・ファスト・クラブ』はブライアン(秀才)、アンドリュー(スポーツマン)、ジョン(不良)、モリー(温室育ち系リア充女子)、アリソン(不思議ちゃん)の5パターン。

 

スペンサーにブライアンが、フリッジにアンドリューが、ベサニーにアリソンが、マーサにアリソンが置き換えられると思うが、ジョンはアレックスに置き換えられない。

 

アレックスはそもそも冒頭でしか子ども時代が描かれず、キャラが定まらない。強いて言うならゲームオタクのサブカル少年だろうが、それはスペンサーと被る。

 

ジョンに対応するキャラクターとしてアレックスを配置するべきだったのではないか。そうすると中盤以降で仲間割れが発生し、物語の流れが悪くなってしまうという意見もあるだろう(アレックスの登場は物語中盤~)。だとすれば、冒頭からアレックスを登場させるという手もある。ゲーム内の案内キャラかと思いきや、彼は20年前に引き込まれた少年だった。探していたピースは、実は一番近くにあったのだ。

その展開の方が、熱くないですか?

 

アレックス以外の少年少女の描きこみも正直不十分に思える。スペンサーがオタクだとわかるのはある程度のゲーム知識と冒頭のゲーム描写だけ。しかもストリートファイターはオタクアイテムとしては浅くないか?

フリッジがスポーツマンだというならスポーツで活躍するシーンは1箇所は含めるべきだろう。あのままではただの勉強できない幼馴染に対していやな奴でしかない。

ベサニーはまだ現世の描写は他よりもなされていたと思うが、ゲームの中に入ってから改心までが早すぎると思う。ゲーム開始からものの20分くらいでマーサに「あなたもかわいいのに!」と言ってしまうのだ。スクールカースト上位と下位の差は女子ほど苛烈である。ここは、終盤まで引っ張るべきポイントでは? ギスギスした空気を終盤までひっぱりたくなかったのかもしれないが、対立構造は維持しつつもその様子を外側から描けばスノッブな面白さに満ちている―人生は、アップで見ると悲劇だが、離れてみると喜劇だ――まさにコメディな脚本になったろうし、誘惑レクチャーの下りとかも対立しつつもゲームクリアのためには仕方がないというロジックで描けたはずだ。

マーサは一番描きこみが薄い。体育の授業を屁理屈でボイコットしようとする女をなんでスペンサーは好きになったんだ!? マーサに関しては現実時点でもうちょっと隠された美点を描くべきだったでしょう。

 

総じて、ゲームの中に入るまでの時間が短すぎるのだと思う。もう5分増やしてよかった。その代わりに、カゴの蛇をとらえるくだりはぬかそう。あれ、3D向けのサービスでしかなかったでしょ……。

 

ココ、一味足りない②ゲームという設定の活かし方

致命的なもんだいとして、ジュマンジのゲームがおもんなさそうなのである。

まず、あのゲームでネズミのムースを選ぶやつがいるか? 荷物運び専用のキャラって。。ゲーム内パワーバランスがおかしすぎる。ジュマンジスマブラの開発者にゲーム監修をしてもらうべきだった。

敵キャラもヴァン・ペルト以外モブでしかなかったし、登場する自然の驚異もカバ・サイ・ヘビ・ジャガーと現実の延長線上にすぎる。もっと、巨大なライオンとか出せ中田のか?そうするとランペイジと被るのか?

ゲームの謎自体も単純で特にどんでん返しがあるわけではない。キャラクターのレベルアップ、アイテムのやり取りや精製、回復など普通のRPG要素は一切なし。そのくせキャラパロメーターやNPCといった要素だけ入れているからジュマンジ、ゲームあんまり知らんのちゃうか…とがっかりしてしまうのである。

前作はゲームが現実の世界を侵すのに対し、今作はゲームの中に入り込むのだ。話のスケール自体は小さくなり、悪く言えば個性を失ったのだから、その代わりにゲーム内でしかあり得ない超ド級の映像を見せるべきでしょう。前作の描写のスケール感、設定のスケール感ともに縮小されていたと思う。

 

ココ、ひと味足りない③ウェルカム・トゥ・ジャングル

サブタイトルにもなっているローリングストーンズのウェルカム・トゥ・ジャングル。この映画ではエンドロールとともに流れる仕様となっている。

 

だが、どう考えてもタイトルとともに流すべきだったろう。そして、それとともにアレックスのジュマンジ内での孤軍奮闘を描くのだ。そうすることで、後で出てきた時のカタルシスが、2倍・3倍も異なったものになるというのに(この部分、アレックスをはじめから出せという前述の提案とは矛盾するが、今回のプロットの場合の別の提案ととらえていただきたい)。

 

せっかくサブタイトルにまでするのだから、曲の力を借りてテンションを爆上げにさせてくれ。

そのあたりの発想が一味足らず、また、人間が描き切れていないという意味でヒト味足りないというのが、この映画を鑑賞しての俺の不満であった。

 

とはいえ、ハムくらいの味付けはしてあるので、見て損ではないと思う。