裸で独りぼっち

マジの日記

『親切なクムジャさん』90点 殺しのスカッとジャパン

※ネタバレがあります

つい先日、韓国旅行に行ってきた。

そのときに、街中で目についたのが「クレヨンしんちゃん」の人気っぷり。

 

「신짱구」(シンチャング)という表記が土産物屋にあふれ、しんちゃんのプリントされた靴下、傘、ハンカチなどが売られていた。

 

このパク・チャヌク復讐三部作の最終作『親切なクムジャさん』には、「がっちゃん」がでてくる。

言わずと知れた鳥山明の超ヒットギャグマンガに出てくる宇宙人のガキだ。

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がっちゃん(赤丸部分)

 

しんちゃんとがっちゃん(『Dr.スランプ』)。この2作に共通するのは、子どもの天真爛漫さゆえに生まれる下品なギャグであろう。

 

親切なクムジャさん』からも、同種の印象を受けた。

なんて天真爛漫な復讐劇なんだ。

 

ストーリー

その女子刑務所には、顔の光る女囚がいる――。

美貌を持ち、幼児誘拐・殺害の罪で投獄されていたクムジャは、13年の刑期を終え、投獄を解かれる。

彼女は、署内での献身的な態度から「親切なクムジャさん」と呼ばれ、ほかの囚人たちに慕われていた。

その献身的な態度には、理由があった。クムジャは、無実の罪を着せられていたのだ。

真犯人であるペク先生に復讐するため、女囚たちの協力を得て、クムジャは真犯人を追い詰めていく。

 所感―画面が綺麗、韓国のセンス

この映画のシーンは常に美しく、ときにシュールだ。

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犬と化したペク先生をクムジャさんが引きずるシーン

現代絵画のような色づかいの妙。

復讐モードと化したクムジャさんは赤いアイシャドウをまとう。

戦いのメイク……!(Ⓒゴージャス・アイリン)

それが、イ・ヨンエ(『チャングムの誓い』、主演で有名)の白い肌に映えまくる。

 

色使いだけでなく、構図や編集もしっかりと工夫がなされており、ある種アニメを見ているときのような”見ているだけの快感”を味わうことができた。

それだけで、一定以上の視聴価値はあると思う。

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英韓辞書とイメージの2画面構成で心証を語る

これらの美しさは、現実から少し浮いているタイプの、まさにアニメ的なもので、それゆえに”リアルドラえもん”を見ているようなシュールさは常に存在していた。

そのバランスがあるからこそ、この作品はなんとも不思議な”復讐コメディ”としての魅力を発している。

その点、真面目に考えると「ハァ?」なところもあるのだが、この作品に関しては作り手が自覚的なこともあり、作品としてのバランスは崩れつつも成立していたのではないか。

そう思う。

 

殺しのスカッとジャパン

この映画の一番のユニークなポイントは、後半の展開―被害者全員で復讐する―だろう。

ペク先生が4人の子どもを殺していることを、ケータイに付けらえたキーホルダーから察したクムジャさんは、その被害者家族を呼び寄せる。

そして、廃校の一室にて繰り広げられる被害者家族のリアクション2コマ漫画と、復讐会議。

 

 「やるなら一気に片付けよう」

「個人的な問題は別にしたいわ。 パパ、そうよね」

「1人じゃ怖いと思うわ 危ないし」

「トイレと同じ 1人でするものよ」

 かくして議論の末、しっかりペク先生は惨殺される。

 

犯罪被害者が加害者を前にして許すことができるのか、いわゆる”復讐もの”の映画ではよくあるテーマで、そのポイントをめぐってえんえん議論が停滞するつまらない映画もごまんとある中、この決断は「えー!! それでいいのか倫理観」と思いつつもスカッとする。

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被害者夫婦の2コマ漫画

そう、この作品は殺しのスカッとジャパンだ。

コメディでもあるし。

 

ただ、もっとアートで、シュールで、R-18なだけ。

 

・クムジャさんはどうしてあれだけ殺人を起こして逮捕されないのか

女子刑務所自由過ぎじゃないか

・被害者家族納得早くないか

・白人の里親家族フランク過ぎじゃないか(殺人犯の実母にすんなり娘預ける?)

 

上記のようなツッコミポイントもスカッとジャパンじゃよくあること。

 

これは決して批判ではなく、”復讐”というテーマを単なるアクションではなく重い何かとして描きながら、これだけスカッとした作品に仕上げられる、韓国人監督パク・チャヌクの奇怪なセンスへの賛辞である。

 

そしてその背景には、「天真爛漫な下品さ」を愛する韓国人の、日本人からしたら一個ネジが飛んでると思われるような笑いのセンスがあるような気がするのである。

 

NANTAとかも、日本だったら「食べ物を粗末にするな!」っていう苦情を懸念してストップされそうでしょう?

THE NANTA

 

 

 

キャスト/スタッフ

主演:イ・クムジャ(イ・ヨンエ

真犯人:ペク先生(チェ・ミンシク

魔女:魔女(コ・スヒ)

クムジャさんの娘:ジェニー(クォン・イェヨン)

監督:パク・チャヌク