裸で独りぼっち

愉快な毎日の記録

『カメラを止めるな!』93点 スーパー・ウェルメイド・クリエイター賛歌

話題作中の話題作。

藤井健太郎からよっぴー、乙一から水道橋博士まで絶賛。

 

馬鹿みたいに並んでいた。

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7/21-9:34 @新宿ケイズシネマ

 

俺は2つの理由でぼろくそ言える点を探してやろうと思っていた。

1つは、単に人気者が嫌いだから。

2つに『湯を沸かすほどの熱い愛』が嫌いだから。

 

ある作品がもてはやされるとき、「それを否定する奴はダサい」みたいな風潮ができる。というか、普通に面白くて質が高いことは確実なわけで、ひがみか目立ちたがり屋がやっとチャンスをつかんだ若人(上田慎一郎監督は35歳だけど)の脚を引っ張ろうとしていると受け取られても仕方がない。

でも、みんなが同じ方向を向いて言うのはやっぱり気にくわない。『ただ文句が言いたくて』という映画批評サイトがあるが、あのサイトに需要があるのは、そういうことでしょう。

 

また、『湯を沸かすほどの熱い愛』。『運命じゃない人』(2005/内田けんじ)とか『百円の恋』(2014/武正晴)とか、若手映画監督渾身の一本が話題を集めることは日本映画界でたびたび起こることだが、2016年のそれはこの映画だった。

で、俺には全然合わなかった。宮沢りえ演じる母の独善的かつ一方的な愛。能町みねこも指摘していた監督の性的志向?な性認識の発露。とても好きにはなれず、ミニシアターで足をガタガタさせていたら隣の方に注意された(これは俺が悪い)。

ともかく、当時特に芸人界隈で絶賛されていたあの作品。ちょっと絶賛され方が、あのときのあれに近しいと感じたのだ。

 

というわけで、見た作品に、「批判できる部分はあった」。

 

youtu.be

※ここからネタバレがあります。

見事な伏線回収。それに留まらない「映画愛」。演者と監督の熱狂に感動

良いところの感想を述べると、そのようになる。

あいにくと三谷幸喜作品は全く見ていないので、何も比較できない。

 

確かに俺が偉い人なら、絶賛以外の選択肢はない。

 

良いとこ①面白い設定に面白い設定をかぶせる努力

作中作に違和感を忍ばせておいて、後からこんな真相がありました、とネタ晴らしするのは、面白いが誰もが一度は思いつきそうな設定だ。

ゾンビ映画をワンカットで撮影する、というのも、アプローチとしては面白いものの、ホラー映画の傍流としてのゾンビ映画のさらに傍流にしかなりえず、成功したところで界隈でちょっとした注目を集めるだけで終わってしまうだろう。

その2つの”面白の種”を組み合わせたところにこの作品の妙はある。

その点、”面白の種”を常に探しているようなテレビマンや映画作家、芸人や作家の方が評価しやすいと思うのだ。

なぜなら自分も近いところで同じような種を手にして、それに花実をつけるベストな手立てがわからず、手放した経験があるから。

そこにあるのは賞賛と憧憬、そして一抹の悔しさ。あるいはその逆だろう。

 

良いとこ②トラブルメイカーが称賛されない

この手のドタバタコメディでキツイのが、ドタバタの原因が許されるという現象だ。

 要するに、そいつに迷惑を起こされて事態が悪化しているわけだから、何らかの罰が下されてしかるべきなわけである。

それにも関わらず、そいつ(多くの場合主役級)は事態をひっかきまわし、それの収拾に成功しただけで、称賛を得ることが多い。

ヤンキーが良いことをちょっとして先生に気に入られるのと同じ原因である。観客は作品を外側から余裕をもって=先生の立場から見るから主人公に自然と甘くなるが、俺はその点を見過ごせない。

今回は、その点、主人公は振り回される側。事態が収束した後が特に描かれないので、事態を悪化させた原因(細田(酔っ払い)と妻(暴走))が許されることもなく、セーフ。

まあ、不倫で遅刻した相田(女優)と黒岡(俳優)も含めて罰が下ってほしくはあったが、そのあたりはどうとでも脳内で補完できる。

あるべき秩序の破壊者が結果として漁夫の利を得るという、現実でもフィクションでもありがちな胸クソ展開がなかっただけで、良い。

 

全体に見て、とても面白い映画。96分という長さもちょうど良い。

俺が特に好きなのは、「カメラマン交代のくだり」。地面に置かれたカメラという構図も、あれはあれで新鮮で良かったし、その前後で撮り方が変わるというのは、単なるハプニングを映画全体の効果につなげていると思う。

それにあの廃墟。普通にゾンビ映画を撮りたいくらいの垂涎の一軒で。よくもまああんな場所を見つけてきたもんだ(京都の浄水場跡らしい)。

あ~面白かった。サヨナラ、サヨナラ。

kametome.net

観客の笑い声問題

B面の話をする。

実際この映画は、ケイズシネマに入れなかったため、池袋ロサ会館7/22日13:30~の回で見た。

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7/22-11:17

観客は大入り満員。『ONE CUT OF THE DEAD』のTシャツを着ている人もちらほらいた。そして、映画が始まってからは笑う笑う。多分何度も見ている観客もいるのだろう。前半からポイントを外さず笑いが起き、斧を拾うくだり(「こんなところに都合よく斧が!」)ではガキ使の2ショットトークでも聞かへんでというくらいの笑いが起きていた。

で、俺はそのせいでちょっと冷めた。

 仲間が仲間を呼び、さらに仲間が増殖している。その中に俺も組み込まれている。

その事実を眼前に突き付けられた気がした。

それにしても、斧のくだりはちょっとわかりやすすぎる気がする。

実際ゾンビテレビであんなシーンが流れたら観客はしらけるはずだ。要するに、あのシーンはミスをうまくカバーできていないシーンなわけで、演者の目指すところとは真逆である。ほかにも、カバーできていないシーンは多い。

 

・監督のカメラ目線での「カメラを止めるな!

・明らかに間近に来たのに松本(女優)の存在に気付かないゾンビ

・死んだはずのメイクさん(妻)の復活(「なにあれ!」)

・一旦停止が不自然に多い女優と恋人の訣別

 

上記のような失敗が生まれた時点で、うまくカバーしたとは言っても日暮(主人公)はクビだし、責任を取らされるだろう。きっとネットは祭り状態で、局には問い合わせが殺到しているはずだ。

 

上記のポイントでこそ大きな笑いが起きるので、「お前ら、『ONE CUT OF THE DEAD』の成功をホンマに願っとるんか?」と疑ってしまった。

Tシャツを着るほどのめりこむなら、きちんとスタッフとして失敗には対応してほしい。そうならないとしたら、単なる連帯のグッズとしてTシャツを買ったということになる。いや、別にええんやけど、なんかチャラいやん。

…身内的なナアナアを否定するつもりが、うるさ型のオタクみたいになってしまった。

ただ、そのあたりのチャラさが、この作品が本来持っている価値以上のブームとなっていることを示していると思うんだよなあ。

 

クリエイター賛歌をクリエイター以外はどう聴けば良い?

この作品に熱さを感じたとかやる気をもらったという人は、映像作家とか、絵師とか、自分も何かを創造する立場の人ばかりだ。

根本にある思想が、「モノづくりへのこだわりと熱狂は最高!」だからそりゃそうだ。

だから、主人公の娘真央はめちゃくちゃ甘ったれた理想馬鹿なのに、特に成長せず、むしろ現実を生きていた父親がそちら側のセカイに引き込まれて終わる。

俺は真央が嫌いである。

子役の母親に暴言を吐かれた最初の監督が可哀そうだ。

何歳も年の離れた娘にびんたを喰らわされたイケメンプロデューサーが可哀そうだ。

俺にいわせりゃ、悪いのは意識ばかり高くて謙虚さと実力の伴わない真央である。

 

だが、そういった指摘は寡聞にして聞かれない。

 

なぜか。

 

前述のとおり、この作品がクリエイター賛歌だからである。

理屈ばかり語る役者。ナアナアで済ませようとするプロデューサー。嘘をついて我田引水をもくろむ女優。

そういう奴らっているよな、というあるあるというトッピングが、この作品の冒頭からクリエイター向けに乗っけられている。

そして、締め切り前のハプニングや演者のトラブルで現場は鉄火場となり、それを何とか収束されたときの体験が、さらに大きな味付けとなって作品の終わりまでまぶされている。

そのクリエイターあるあるへの共感、さらに言えばそのようなキツさを生むこだわりに生きがいを感じる人間たち=クリエイターへの賛歌がこの作品にあなた方を惹き付けている側面は確実にあるでしょう?

 

クリエイターではない俺(たち)には、そのトッピングがない分、熱さとかやる気がわいてくる感覚とかは感じられない。だから、「後半の展開に泣いた」とか「映画の面白さってこれだと思った」とかいう意見を目にすると、「ほんとかよ?」という世間をねめつけるような疑いと、取り残されたような、ちょっとした寂しさを感じるのだ。

 

あと、日暮(主人公)がこだわった最後の映像。俯瞰ショットで五芒星とその中心に立つ女を撮ることで「黒魔術が行われたこと」を示すというオチ。

このオチ弱ない?

監督とメイクのセリフの時点で血を用いた何らかの儀式が行われたことはすでにわかっていたわけで、その真相が血で書いた五芒星だと言われても…だし、そこまでこだわって撮影すべきポイントにも思えない。

詰め寄られたイケメンプロデューサーに同情しきりの俺であった。

 

まとめ

前評判通りちゃんと面白かった! 面白かったが、これを生涯ベストという人は「クリエイタートッピング」乗ってないか? と一度疑って欲しくもある。もしくはクリエイター憧れがトッピングになっていないかを。

予算(300万円くらい)の幅から考えると、マックスの面白さを引き出しているとは思うけどね(えらそう)。