裸で独りぼっち

マジの日記

『アメリカン・ハニー』85点 携帯小説とボニー&クライド

夕暮れ、ライトバンに乗って誰かとリアーナを歌うのは最高だ。

それだけの映画である。

 

そういうミレニアム世代あるあるの感覚に『俺たちに明日はない』(1969)的 悪漢譚 ピカレスク と2000年代携帯小説DQN恋愛模様が組み合わさっている。

そういう映画である。

 

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ストーリー

貧しい暮らしを送る主人公スター(18)は、ある日スーパーマーケットでヒッピー風の若者集団に遭遇。男に声を掛けられる。

「雑誌販売の仕事なんだ。俺と一緒にこないか」

 ジェイクに誘われたスターは家族を捨て、ライトバンに乗り込む。

そこにはスターと故郷を捨てたという意味で似た若者たちがいた。

商売の元締めクリスタル。

すぐにチンポを放り出すコーリー。

ダースベーダーに恋するペイガン…。

新入りのスターはジェイクとともに雑誌の販売に取りくみ始める。

 携帯小説とボニー&クライド

 世の中の陰キャの多くがそうであるように、俺は携帯小説携帯小説を読む層も小ばかにしていたので、その内実についてよく知らない。

『恋空』のAmazonレビューが荒らされているという今は亡きまとめサイトの記事を読んでウヒヒと笑っていただけである。

だから、これは門外漢が決めつけていっているだけの発言にすぎず、携帯小説ガチ勢(テン年代にそんな奴いるのか?)からしたら的外れかもしれないが、スターとジェイクの関係はまるで携帯小説である。

 

こいつら好き同士のくせに全然くっつかへんし、当てつけのようにヤリ倒すねん。

盗んだ指輪プレゼントされて喜ぶねんけどやきもち焼いて友達にあげてまうねん。

森の中の小さなお家で暮らすのが夢とか言い出すねん。

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盗んだ高級車の上でヤリ倒すスターとジェイク

そういうDQN的浅はかさとそれと裏腹な純粋さが核にあるのがこの映画なわけだ。

 

それで、そういうDQNかつ純粋なカップルの類型の最古は何だろうと考え、『俺たちに明日はない』(1969)のボニーとクライドに思い当たった。

 

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盗んだ車にもたれかかるボニーとクライド


おそらく破滅が待っているだろうあてどないカップルの汚い純粋さを描くというポイントで『俺たちに明日はない』と『恋空』と『アメリカンハニー』の宇宙はつながっている。

 

集団とカーステレオ

 この映画で俺が最初にオッと思ったのが意外とあっさりスターが子どもたちを手放してしまう冒頭の流れである。

先日『フロリダ・プロジェクト』(2018)を見てアメリカの貧困の中にいる子どもに飢えていた俺は、今後もこの子たちは話に絡んでくるのかなと思ったわけだ。

しかし、「あんたたちは連れていけない」と元の母親のところにおいて、スターは駆けだして逃げてしまう。子供たちはあんなおかしな親父と無責任な母親のもとで生きていけるのだろうか。

ついそう不安になってしまうが、この映画ではそこは描かない。

終盤、電話をかけるシーンはあるものの、つながりはせず、あくまでスターの人生と恋にフォーカスしたままである。

スターは旅に出て同じ境遇の若者らと暮らすものの、誰かと親密な友人になったり、信頼関係を築いたりする描写はあまりない。

あくまでジェイクとの恋模様とジェイクを従える女王様クリスタルとのライバル関係があるだけだ。

 

ただ、リアーナやサムハントの曲がかかった時だけ、彼らは一体化する。「この曲よくな~い」とゆーび~む☆が演じる女のように、文化祭の最後の日、特に乗り切れなかったけどなぜか周りと『小さな恋の唄』を歌う学生のように。

これは旅あるあるである。

曲だけが、人間をひとつにすることがある。

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これは『俺たちに明日はない』にはなかった要素だ。

あの頃にはカーステレオがなかったから。

かといって今後の若者には共有できない文化かもしれない。

みんながある程度知っている曲なんかないから。

そんなわけで、1970~2010年までくらい生まれ世代だけが共有できるはずなのだ。このエモいわれぬエモさは。

 

この映画の終盤では、グラミー賞ノミネートアーティスト、レディ・アンテベラムアメリカン・ハニーが歌われる。

 

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カントリー調の優しい曲だ。

ロードムービーとは言えども、その内実は携帯小説で、友情が芽生えたり、誰かが成長したりはしない。

むしろ、急に誰かが増えたり、減ったりするし、最終的には信用していない。

しかし、日暮れ時、狭いライトバンの中でぎゅう詰めになって歌うときだけ、「ここだけ」が生まれる。

There's a wild, wild whisper Blowin' in the wind

ここではむき出しのささやきが風に吹かれてる
Callin' out my name Like a long lost friend

昔失った友達みたいに私の名前を呼んでる
Oh, I miss those days As the years go by

あぁ、あの過ぎ去った年月が懐かしい
Oh, nothin' sweeter than summertime

夏の日々より甘いものなんてない
And American honey

そしてアメリカンハニーも

『American Honey』歌詞(サビ)

 

その美しさとか特別さを描いた映画という意味で悪くなかった。

2時間40分は長すぎて後半ちょっと眠かったけどね。

 

キャスト/スタッフ

監督:アンドレア・アーノルド

主演:サシャーレーン(スター)

ジェイク:シャイア・ラブーフ