裸で独りぼっち

マジの日記

『いとしのアイリーン』97点 国際結婚露悪露愛映画

irene-movie.jp

新井英樹の漫画は『キーチ!!』を立ち読みしたことしかない。

あとは『ワールドイズマイン』を少々。

いずれも面白かったが、ほかの作品にも続編にも手を伸ばす気にならないのはやっぱりその露悪的とすらいえるリアリズムが「しんどい」からだ。

今回、映画というルドヴィコ療法的装置で強制的に鑑賞した『いとしのアイリーン』。

脳がガツンとやられた。

 

ストーリー

新潟の農村で年老いた父、母(木野花)と暮らす宍戸岩男(安田顕)42歳。

パチンコ屋で勤務する岩男は、同僚の愛子(河合青葉)にほのかな恋心を抱くが

幻想を砕かれ、失意のままに仕事を休み、フィリピンへ旅立つ。

その旅は、いきつけのフィリピンパブ店主の口添えで参加したフィリピンお見合いツアーであった。300万の金を投資し、大家族の娘、アイリーンを手に入れた岩男。

2人で家に帰ると、父は命を落としており、葬式の真っ最中。岩男を溺愛する保守的な母は「そんな嫁は許さ”ね”ぇ”」と、アイリーンに猟銃を向ける。

天真爛漫なアイリーンは母の頭が冷めるまで岩男とホテルを転々として暮らすことに。金で買われた結婚ながら、2人の間には愛のようなものが芽生えつつあったが、母はアイリーンに執着するヤクザ塩崎(伊勢谷友介)と結託し、アイリーン追い出しを画策するのだった。

 昨日も結婚にまつわる映画(タリーと私の秘密の時間)をみた。

hadahit0.hatenablog.com

『タリー~』も子育てのどうしようもない側面を映画いている傑作だったが、日本の映画が描く結婚のどうしようもなさも、負けていないぞ。

――全くモテない男が、金を頼りに途上国に行き、嫁を購入する

正直バブルっぽい話で、今の日本だと賃金格差的にそろそろ追い付かれてきてるんじゃないのという気もするのだが、十数年前には確実にそこらへんに散らばっていたリアルだ。

それを汚いと批判することは簡単だが、「金のための結婚」も「家のための結婚」も「愛による結婚」に引けを取らない数、この世に存在していただけわけだし、なんなら「愛による結婚」と銘打っていてもそれらの要素が絡んでくることは人が家族を作る限り免れ得ないであろう。

そのような「汚い結婚」であっても愛が生まれないとは限らないし、愛が生まれなくても「子ども」は生まれる。そして、子どもというのは愛なんて不確かなものよりずっとリアルな命の奇跡なのである。

 

――物語の前半では、そう思っていた

だが、この物語、それを序盤でぶっ飛ばすような人間の深みへどんどんハマってゆくのである。

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※中盤のかなりのネタバレ

ヤクザにアイリーンをさらわれた岩男は2人を追い、塩崎を猟銃で殺してしまう。塩崎の死体を土に埋めるアイリーンと岩男。

帰ってきた二人は、母親を押しのけて初めてのセックスをする。

塩崎が消えたことにヤクザは気づいていた。死体は上がってこないものの嫌がらせとして「人殺し」と落書きされる岩男の車、家。

追い詰められた岩男は愛子を強引に抱き、ずるずると関係を続ける。家に帰ったらアイリーンに「オマンコさせろ」と3,000円を投げつけ、金がないことからバイト先のおばさんに体を売る。アイリーンと交流していた若い坊主をボコボコにする。そんな岩男は夜な夜な森に向かい、木にナイフで一心不乱で何かを刻んでいた。

 人を殺してしまった岩男は、死への興味から生(性)に狂ったように執着し、救いを求めることになる。一度はつながりあったように見えたアイリーンにも金を投げつけてオマンコさせろと強要する始末。

この時間がつらい。岩男は主人公で、優しいが不器用なところがあって、俺みたいだな、と感じていたが、そんな奴が大嫌いな人間になってしまっている。そして、そんな情けなさも俺みたいかもしれない。

――だって金を払ったんだから、俺には権利があるはずだ。

そう思わないで今までずっと市民でいられたという自信が俺にはない。

 

かといってアイリーンが天使であり聖母なのかというと、そうではない。

 

終盤、アイリーンはすべてを見捨ててフィリピンに帰ろうとするし、それを義母に「姥捨て」と指摘され「そうじゃない!」と自らが良き人間であるという幻想を守ろうとする。

 

塩崎に「お前の結婚は売春とどう違うのか?」と問われ、「――心は売ってない!」と答え、徐々に岩男と愛をはぐくんだアイリーンはしかしやはり綺麗で無邪気なままでは居てくれないのである。

 

欲、ドロドロ、我。

 

結婚とか愛とか、そういうコーティングはそれらを覆い隠すメッキでしかないよと、新井英樹に言われているかのようだ。

 

しかし、この映画が人間の汚さを描くものか? と問われるとそうではなく、やはり「愛についての映画だ」としか最終的には言えない。

 

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キャスト/スタッフ

監督:吉田恵輔

…ヒメアノールも見なくてはならないな、と思わされた。

岩男:安田顕

チームナックスは全員順当に評価を獲得していくなあと思う。

アイリーン:ナッツ・シトイ

…オーディションの部屋に入るなり顔見知りのプロデューサーに抱き着いた天真爛漫さに制作陣は「アイリーンがいる!」と採用を決めたそう。「おかさんおかさんおかさん!」と演技のアイリーン性には、原作未読の俺も確かにアイリーンはこの人以外考えられん後思わせた。

母 宍戸ツル:木野花

…役を受けたときの感想が「この役は体を壊すな」というものだったそう。いずれの感想サイトでも評判の高い狂演だった。

愛子:河合青葉

…雰囲気エロかった。感想サイトであったがフィリピーナが乳首出してるのに愛子が出してないのはちょっと良くないと思う。事務所NGとかならしかたないが。

主題歌:奇妙礼太郎「水面の輪舞曲」

…この映画終わりで聞くとかなりしみた。ていうか奇妙礼太郎って英語だとSTRENGE REITAROなんや…。シェイプアップ乱かよ。

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愛しのアイリーン[新装版] 上

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