キングオブコント 2018 かんそう
全体として、今年のキングオブコントはハネない年だったように思います。
去年はにゃんこスターが起こした波乱の年。コントが音ネタに、物語が客受けに駆逐されるか、とハラハラしたものでした。だけど、それは大会自体にドラマを生み出していたのだな、と。
・出場者完全?シークレット
・準決勝のネタ2本審査
・最終決戦5組→3組
・準決勝と決勝のネタ変えるの禁止
視聴率を獲るために行た上記施策はすべて空回り。出場者はシルエットとリークにより5ちゃんやTwitterで特定されてしまい、決勝の客層・審査員に合わせたネタ選びができないことで2本目がハネない、という結果になったのではないかと。
「今年のネタ全部面白かった」
という反応もそこそこあるのを観測していますし、明確にクオリティの低いネタや炎上ネタがなかったというのは確かです。
それでも2011年東京03の「旅行初日にこの空気どうすんだよ!」、2012年バイきんぐの「怒りすぎて逆に反応できなくなってるパターンだ!」のような会場の空気が変わる瞬間はなかった。しいていえばライスが優勝した2016年の空気に近く(それでも「~くれえぃ」はキーワードとしてハネた)普通のネタ番組のチャンピオン大会、くらいの印象でした。
とはいえ、良かったのはハナコがナベプロ初のチャンピオンとなったこと。それぞれにキャラクターと清潔感があるので、変異委縮することなくバラエティ一周目を終えられたらお茶の間の人気者、とはいわずとも認知度60%くらいにはなれるのではないでしょうか。
しかし、驚いたのはハナコの先月の芸人としての給料が0円というニュースです。NHKBSの芸人育成番組『笑けずり』では最後の3組に残り、ナベプロの『お笑いハーベスト大会』では優勝、次世代のお笑いスターを発掘すべく8年ごとに放送される『新しい波24』のメンバーにもなっていたというのに。正直芸人としてバイトせずに暮らせるくらいの収入は得ていると思っていました。
アキナは月収80万、ニューヨークも普通のサラリーマンくらいの収入も得ている、大手事務所でないあかつも月収100万等、なんだかんだ言ってある程度名の知れた芸人はちゃんと稼げるんだな~と思っていたのですが。
世の中の収入の仕組みって理不尽っすね。
1組目:やさしいズ「爆弾魔と清掃員」
お笑いオタクの間ではすこぶる評判の良かったやさしいズ。残念ながら1組目ということもあり、あまりハネず、結果最下位となってしまいました。
やさしいズといえばやはりマイルドヤンキーキャラ×やさしい展開という新しさの妙が評価されていると思うのですが、それが会社を爆破したい人と清掃員という「他人の関係性」では生きなかったのではないでしょうか。
やっぱりマイナビラフターナイトで披露したような家族のコントが見たかったですね。
2組目:マヂカルラブリー「傘泥棒」
Twitterでマヂカルラブリーオタクの人をフォローしているので、自然とマヂカルラブリーには好感を持っています。小レースに挑戦しながら、ゲームアプリ「愛方」を出すなど自由に生きてんな、というのが野田クリスタルの底知れなさですよね。
1回戦からウケを取り続けていた「デスゲーム」が不謹慎なため禁止されることに。そこで急遽作られたのが傘泥棒だというのは大した対応力です。ただ、傘泥棒をとがめだてされる場面でループする設定にフォーカスしすぎたのではないかと自分は思いました。明らかに傘立ての中で一番きれいな傘を触ってもいないのに咎めたてるクレーマー気質なおっさんがループの中に閉じ込められたら、という部分はもっと膨らませられたのではないかと。そう思うと、やっぱり時間のなさがネタに影響した部分がありそうですね。
3組目:ハナコ「犬」
坊主の岡部演じる犬の形態模写一本勝負で臨んだこの作品。
本当に菊田がいらないネタでした。
岡部の演技巧者っぷり全振りのネタだったわけですが、天丼が評価される傾向のあるこのキングオブコントにおいて、評価されやすいネタでもあったわけです。
女性の多い会場の空気もここで味方につけられたのが大きなポイントといえるでしょう。
4組目:さらば青春の光「予備校」
さて、うわさの予備校です。
このネタは昨年から「めちゃくちゃ面白い」と噂に上っており、ラストイヤー宣言がなされた今年満を持しておろされたことはお笑いファンにとって一つの事件でした。
ネタ準的にも、ちょうどいいな、期待できるなと思ったのが自分の最初の感想です。
ここまで性格の良いネタが多かったので、そろそろ性格の悪いネタが欲しくなるところでしょう。こちらも「バイトなのに偉そうにしてるやつが説教する」という状況の天丼であり、決勝用に仕上げられているというのも期待できるところでした。
結果は、ハナコに次いで2位。
その差は一点ですから、まあ納得できるなというのがこの時点の感想です。
5組目:だーりんず「かっこつけ払い」
おととし「童貞」連呼で世間の不評を買っただーりんず。
本年は下ネタ一切排除、シチュエーションとフレーズで笑わせるネタを用意してきました。
オーソドックスな会話劇ながら「かっこつけ払い」「パニック会計」などのフレーズがはまれば大きくウケる見込みのあるネタだったのでしょうが、いかんせん決勝の場に対しての対策は薄かった。
そもそも「かっこつけ払い」自体劇中で言及されていた通り芸人あるあるみたいなところがあり、お笑いファンならばビートたけしがアリとキリギリス(でしたっけ?)にやったエピソードを思い浮かべてすんなり飲み込めるでしょうが、会場のF1層にしっかり実感を持って伝わったかどうか。
6組目:チョコレートプラネット「デスゲーム」
勝手にタイトルを付けましたが、よく考えたらこれもデスゲームネタだな。
このネタが、一番僕と審査員やTwitter短評を行っていたお笑いファン(深爪など)と意見がずれたポイントです。
松尾がギャーギャー騒ぐネタはチョコプラのネタの中で「静かにしろ」などいくつかあるのですが、理不尽なヒステリーにあっているような気がしてそもそも僕は気分がよくない。それに、長田扮する殺人鬼(ジャグジー)もあんなんで焦るくらいならサクッと殺しちゃえば良いだろという気がします。
また、この設定ってSawを知らないと飲み込みづらいし、そういう前提が必要な時点でどうなんかと。
長田が部屋に入ってきてもう1人のゲームマスターが現れた時点でオッとは思いましたがそれがなんらかの伏線回収になるわけでもなし。
ロッチの「試着室」もそんなにはまらなかったので異常に評価されるネタが自分には合わないようです。もしくは会場の臨場感があってこそ伝わるネタなのかも。
7組目:GAG「居酒屋のバイト」
5ちゃんの下馬評では落ちた風潮が強かったのに二を開ければ受かっていたGAG。
正直ネタのファン向け感(3人のキャラを飲み込んでからのほうがずっと面白い)があんまり好きじゃなかったのですが、今回のネタは好きでした。
やっと3人にはまってきたからかもしれません。
ただ、あのギャグマンガのナレーションがごとき説明調のツッコミはそれも織り込み済みでの面白さを狙ったものだとは言え、優勝するともやるレベルの洗練されていなさだとも感じます。
癖になったらうまいんでしょうけど。基本的には初見で面白いものを評価する大会だと思うので。
今回も「非リア向けのネタ」とか、山ちゃんの応援コメントは種明かししすぎではないかと思いました。ただ、前回と違ってマイナスには働いていなかったと思います。
宮戸さんもなぜか抱ける感じがちゃんと出ていました。
8組目:わらふぢなるお「空質問」
目の付け所がシャープですね。
以前まいなびラフターナイトでも披露していたネタですが、絶妙にあるあるであり、日本語の難しさを思い知らせてくれるネタという意味で、言葉のネタの頂点クラスにあるものだと思いました。
ただ、ラフターナイトで聞いた時も僕「あれ? 漫才か」と思ったんですよね。そのくらい動きのないネタであり、コントで全く別の人間を演じてやる必要があるのかという疑問はありました。
また、Gyaoの反省会で小峠さんが「サンドさんの事前コメントが良かったよね。わらふぢの見方をドリルみたいにお客さんに教えてくれてて。そういうところが好感度高い理由だろうね」と言っていましたが、それ反則じゃないかとも感じました。
事前Vで有利になるのは、勝負の公平性を大きく妨げますから。
ただ、事前Vという制度がある以上ある程度勝負に影響するのは仕方ないことですし、今回のサンドのコメントは許されるネタの範囲にあったとは思います。
ふぢわらのボケたがりには困ったものだし、BKBが即興BKBのお題くれっていったときの口笛なるおの理解の遅さにはチョコプラとのタレント力の差を感じましたが、だからこそネタで評価されてほしいコンビでもあります。
9組目:ロビンフット「彼女の年齢」
これは、僕の中でチョコプラの逆です。
つまりもっと評価されていいだろ、ってこと。
もちろん今回5位ということで当落線上には上がっていたわけですが、個人的には予備校についで2番目だ、と感じました。
ハナコ、さらば、ロビンフットの決勝が見たかったです。そして、検尿、ヒーローが見たかった。やっぱり5位までの審査であれば……。
年齢と干支という話だけをもとにあそこまで話を広げられるのはおじさん芸人とは思えない発想の豊かさですし、BGM(ユーミン)をああいう風にくすぐりとして使うのは、今まであんまり見たことのないものでした。
ただ、どんどん年齢があがっていって96まで行ってしまうと、そこまでいったら自分をごまかすごまかさないの問題じゃないだろとリアリティラインに対する疑問は生じさせました。
10組目:ザ・ギース「サイコメトリー」
身内に情報を漏えいされたザ・ギース。
Twitterで漏らした作家は干されるだろうなと思っていましたが、尾関が口止めしていなかったのならかなりかわいそうですね。情状酌量されたのかな。
僕は、モニターを使うネタはちょっとずるく感じられてしまう(だからチョコプラの評価が低いのもある)います。それはコントというより映像作品なのではないかと。ただ、それが狭量な見方であり、演芸の発展を妨げる老害の意見だという自覚はあります。
三村が「高佐はいい人のままでいてほしかったな」とコメントしてなんちゅう浅いコメントだとたたかれていましたが、その点には僕も同意でした。
サイコメトリーが凶器から殺人者の思念でなく製造者の思念を読み取ってしまうバカらしさが肝なのに凶器が偽物だったから読み取れなかったとなると、「なんだ、製造者の思念はやっぱりその程度なのか」と理に落ちた結論になってしまい、テンションが下がるんですよね(殺し合いのなかで製造者の思念が浮かび上がるカオスな空間はよかったです)。
決勝1組目:ハナコ「彼女を追いかける」
後半がよかったですね。
前半は正直砂浜で追いかけっこをして、彼女に追いつけなかったら面白いよなという4コマ漫画みたいな発想だなと思い、そんなことだからマスオチョップに負けたんだとお笑い格付けを行ったのですが、『OnemoreTime, OnemoreChance』が流れてから、物語に大きく時間的経過という広がりがでた。
そして、「女子むず!!!」というオチ。普通なら捕まった後に菊田が出てきてなんか言うとか3人目という一番の違和感を使ったオチにすると思うのですが、そこを曲げてきたのが功を奏した。
決勝2組目:わらふぢなるお「能力者」
正直この系統のネタで2012年のしずるを超えるのは無理だと思います。
能力者大喜利が延々と続く構成も爆発につながりにくかった。
もちろん「痛み→快感」の畳みかけで後半爆発する予定だったのでしょうが、ちょっとセクシャルなにおいがはいると、テレビで爆笑を取るのはむずいですよね。
決勝3組目:チョコレートプラネット「意識高い系大工」
ロッチの世界へようこそ、とコカドケンタロウがTwitterでいっていました。
意識高い系のネタっていうのが安易なうえにやや古くなっている気がして僕は好きではありません。
ただ、そのなかでは角度がついていたし、安易に意識高い系をディスるネタでもなかったので、結構好きでした。
スムージーで釘がスムージーに入る下りの下らなさはなんというか、「好き!」ですよね。
ただ、わらふぢ以上に畳みかけの余地がなかったですから、どう考えても決勝のネタではなかった。
それを本人たちも自覚していたと思います。
ああ、ここでこそ「クイズ」とか「静かにしろ」がやれたらなあ。
ただ、最後の「マボロシ~」はさすがでした。タレント能力高いわあ。
Hanako (ハナコ) 2018年10月26日号 No.1165[無敵の大銀座! ]
- 出版社/メーカー: マガジンハウス
- 発売日: 2018/09/27
- メディア: 雑誌
- この商品を含むブログを見る