本屋大賞スパイ活劇→純粋悲劇『ナチス第三の男』 87点
本屋大賞1位を取った『HHhH プラハ、1942年』という小説の映画化。
↑ジャケがかっこいい
HHhH は Himmler's Hirn heist Heydrich を略したもの。
Himmlers Hirn heist Heydrich は
「ヒムラーの頭脳の名前はハイドリッヒ」の意。
Webミステリーズ! : 再び『HHhH』(ローラン・ビネ著)について……。[2012年6月]
第二の男はベッタリと塗り付けられた髪型が印象的なヒムラー。
それに続く男、ヒムラーの頭脳ハイドリッヒを描くのがこの映画。
――の前半。
2人のチェコ人青年ヤンとヨゼフがハイドリヒの暗殺に挑むまでを描くのがこの映画。
――の中盤~後半。
この映画のクライマックスは、これでもかというほど残虐非道なユダヤ人の虐殺とヤン・ヨゼフに対するナチスの報復だ。
戦争と使命
この映画は、戦争という特殊状況下で使命が人間を狂気に駆り立てる様を描いていたと思う。
それは、「悪側」ナチスのターンでも、「善側」暗殺チームのターンでも同様に。
そもそも海軍の将校だったハイドリヒ。女に手を出したことで海軍を除隊され、失意の中で妻の手引きを受け、ナチスに入党する。そこで適性を発揮し、使命を持ってしまったのが、ユダヤにとって、そして願わくはハイドリヒ自身にとっての悲劇であった。
「並べろ、撃て」
「現在ドイツのユダヤ人は○○万人、□□では浄化完了…」
そう答えるときのハイドリヒの目には一転の曇りもない。妻や子供と接しているとき以上に、自信をもって生き生きとして見える。
ハイドリヒは使命を持ってしまったのだと思う。ユダヤ人を地上から排除し、アーリア人の理想の世界を作るという使命を。
ドイツに密入国し、協力者の手引きを経てハイドリヒの暗殺計画を練るヤンとヨゼフ。
「命令を無視しろ。皆殺しにされる」
そう話す協力者に「俺たちはハイドリヒを許すことはできない」と2人は語る。
そして、ほかのチームメイトも最終的には巻き込むことになる。
そうだそうだやっちまえ。
俺はこのシーンで胸が熱くなった。燃える展開である。
しかし、後半に近づくにつれて「えらいことになってしまった……」。
絶望である。
2人の暗殺は危ういところで成功したものの、犯人捜しのためにユダヤ人の町一つが消され、女子供は収容所に送られた。男たちは鉄砲の的。ついに密告者が現れ、協力者は捕まるか自殺。そして、逗留先の幼い少年が目の前で電気拷問にさらされ、目玉をくりぬかれようとしている様子を見せられながら脅しつけられる。
使命が、ここまでの悲劇を生んだのだ。ヤンとヨゼフもさすがに後悔したのではないか。俺は後悔した。作戦を無視すればよかった。いやむしろ、ドイツになんか来なければよかったのだ。
そうすれば、水攻めにあう教会の地下で、親友と頭を同時に撃って死ぬようなことにはならなかったのに。
しかし、使命は2人を動かしてしまった。
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よく考えたら、使命とは「命を使う」と書くのだ。
なんと野蛮な言葉なんだろうか。
勇ましすぎる……。