『ギフテッド』山田宗樹 小ぶりな二十世紀少年 72点
『百年法』という傑作小説がある。
その山田宗樹が『百年法』の次に著した作品がこの『ギフテッド』である。
結論から言うと、小ぶりな二十世紀少年みたいな話だった。
食べ応えがやや足りない代わりに食べやすい。
ストーリー
小学生、達川颯斗全国一斉でなされた法定検査を境にクラスで敬遠されることとなった。彼が、”ギフテッド”だと判明したからだ。ギフテッドは、体内に「機能性腫瘍」と名付けられた新種の臓器を持つ。その意味は分からないが、何か人類を進化へ導くものなのではないかと、国内外で注目が集められていた。
クラスで1人颯斗を気に掛ける佐藤あずさを残し、ギフテッドだけの学校に移った颯斗。そこでは、村山直美、坂井タケル、上岡和人、辰巳龍、向日伸などのギフテッド仲間ができることになった。そして、村山直美――村やんはあることをきっかけに超能力に開花。大人となってから、ギフテッドの教団を作り、ひっそりと活動をしていた。教師となった颯斗、医師となった坂井タケルらは久々に村やんを訪問。その数週間後、教団に反感を持ち、襲撃した若者が超能力で殺害された姿で発見される。それをきっかけに世間のギフテッドに対する恐れと反感に火が付き、どんどん燃え広がってゆくのだった――。
雑感
俺は『二十世紀少年』をちゃんと読んでいない。
それなのに悪口を言うのは気が引けるが、風呂敷をぶん投げた作品だということは知っている。同じ浦沢直樹の作品なら『Monster』は全巻読破した。あれ以上のぶん投げということは、俺も最終巻を読んだとたん本をぶん投げることになるだろう。
だから、読まない。
この『ギフテッド』には、その『二十世紀少年』のにおいを感じた。
まず、大まかなストーリーラインが。
①少年期の仲間が集まって世界の危機を解決する
②敵はその仲間のうちの1人。得体のしれない集団で世界を塗り替えようとする
③主人公はある種特別な位置にあり、ほかの主要人物とは一定の距離を置きながらも一目置かれている(敵も含めて)
とはいえ、違った部分もたくさんある。
この物語における「ともだち」の正体は隠されてはいないし、純粋な敵でもない。本当の敵は異物に対する差別そのものだ。
しかし、何よりも風呂敷を広げつつ興味を持続させていく読者の面白がらせ方が似ているかなとおもった。個々のエピソードがあまり有機的につながらない代わりに魅力的だ。
例えば村やんら教団による22人の殺害事件とか、主人公颯斗のパートと彼を思う佐藤あずさの2つの視点が交差する1章の構成とか、颯斗の教え子夏希が収容された病院で大量の人間がギフテッドにより殺害される事件が起きるとか。
それぞれの殺人は犯人が違う。なぜなら、すべて悪意ではなく感情の発露によって偶然起きてしまったような危機的状況だからだ。
だから、明確な敵と認定できる人物は生まれず、ここのクリフハンガーはばらばらとなる。
これは極めて週刊漫画的な快楽であって、伏線とか心情描写が重要な小説には不向きだ。だから、ちょっと食い足りない。
とはいえ、そこは山田宗樹なので、中心部分(差別)はぶれないため、話がどっちらけにはならない。
だから、小ぶりな二十世紀少年だと俺は思ったのである。
Xメンとの違い
池上冬樹による解説でも触れられているが、超能力者を被差別者として描く作品はたくさんある。その中でも世界的に有名なのはXメンだろう。
ただ、Xメンはあくまでカートゥーンとして超能力によるバトルの魅力に重点が置かれているが、ギフテッドの超能力はあくまで超越した被差別者という記号の為の道具でしかない。
だから、人によって特性とか違いはなく皆一様にスプーン曲げやテレポート、人体破壊やテレキネシスなどの能力が使えるだけだ。その範囲も定められておらず、正直かなりやりたい放題できるように見える。
それでもこの話が馬鹿の考えたガバガバ超能力話に見えないのは、超能力が勝敗を決定する力として用いられていないからだ。
あくまで人を動かす力「政治」こそが至上のパワーとして設定されているのである。もちろんそのためにギフテッド側が人格者ばかりでややご都合のにおいがしなくもないが。
『百年法』でも百年法をめぐる政治抗争こそが物語の推進力となっていたので、ここが山田宗樹の興味の中心の1つであり、得意分野なのである。