『喧嘩稼業8巻』―徳夫VSデミアン十兵衛決着。
この世で最強の格闘技はなにか―。
その一端が、垣間見えると銘打って開かれた格闘イベント陰陽トーナメント。
相撲、シラット、ボクシング、喧嘩……あらゆる格闘技の中で最強と名乗りを上げる12名の陰(古武術や地下闘技場出身など世間に知られない格闘家)と陽(横綱や金メダリストなど広い影響力とおおきな 名誉を持つ格闘家)が会いまみえる。
悪魔の頭脳を持つ高校生佐藤十兵衛は、因縁の敵、工藤を倒すため、あらゆる手を尽くしてトーナメントに参戦する。
大まかにいうと上記のような話、喧嘩稼業の8巻の感想を書く。
この間はトーナメント一回戦第二試合、主人公十兵衛VS日本拳法の使い手で格闘の才能あふれる天才、佐川徳夫の戦闘の決着をメインに描く。
↓ネタバレ
佐川は意外と活躍してない
日本憲法の使い手であり、同じくトーナメント出場者である実の兄睦夫を凌駕する才能を持つ徳夫。野球ほとんど未経験の状態でプロのストレートを簡単に柵越えさせるほどの才能を持ち、格闘技の片手間にプロ野球選手をやろうとするなどのケレン味あふれる描写もあり、「これは天才だぞ、十兵衛はどう戦うんだ」と思っていたが何のことはない、終わってみれば一方的な決着であった。
その理由は、十兵衛の強さ(悪さ)が佐川初登場時より大幅に増していること、佐川が技をほとんど出しきれなかったことの2つに集約されると思う。
十兵衛の悪さ、卑怯さがこの漫画の大きな特徴である。それは本来の作者の味である徹底的なクズさで周りや世間、芸能を笑い飛ばす俗なギャグマンガ成分が大きく影響している。ズルとわかっていながら対戦相手のの睾丸をつぶす、対戦相手に毒を仕込もうとする、セコンドを使って対戦相手に攻撃するなど、普通の格闘漫画で主人公がやっていたら、とても感情移入できない。それでも十兵衛が愛せるのは、ギャグマンガ成分でそのクズさも相対化して笑えるからだろう。
その十兵衛の悪さはどんどんエスカレートし、徳夫戦ではもはや臨界点を突破し、殺人すれすれの行為が行われることになるのだ。
とはいれすれすれというのがミソで、十兵衛は殺人に手を染めることだけは避けたいと考えている。
実際、格闘の末柔道家金田が命を落としたあとには(実際は旧友でありかかりつけの医師が殺したのだが)大きな罪悪感を覚え、写真に向かって手を合わせていた。
もう、しかしもう、そのラインまで行きついてしまった。さすがに意図的に殺人を行うキャラになったら倫理的にもキャラとして愛せるかどうか=漫画の面白さ的にも破たんしてしまうだろう。
その意味で、今後の戦闘でどのような切り口で十兵衛を強化していくのかが気になる。
まさか普通にフィジカルを強くしたり技を身につけさせたりするだけではあるまい。
佐川は正直いいところをぜんぜん出せずに終わった。終わってみれば十兵衛の踏み台みたいになってしまった。だから、今回の戦闘はほかのバトルに比べたら面白いとはいいがたい。
とはいえ、作者もそんなことは重々承知で、だから1巻分くらいでこの試合を終わらせたのだろう。
試合後はまたもや十兵衛の権謀術策
次はいよいよ因縁の工藤との試合ということで、精神面から揺さぶりをかける十兵衛。
工藤は前回の試合で死にかけている。
だから、十兵衛と試合をしたところで勝てないのではないか、という疑念が大きい。
その不安に応えるため、十兵衛が工藤に揺さぶりをかける描写を入れて逆説的に工藤の体はまだピンピンしていて姑息な攻撃をするに値することを示したのだろう。
正直、1日で優勝者を決めるトーナメントという設定は回復魔法の存在しないリアル系格闘漫画世界においてかなり苦しい足かせとなっていると思うし、ご都合のにおいも感じないでもないが……。