裸で独りぼっち

マジの日記

ナイトクローラー 85点 盗映人間L.A.に現る

※ネタバレがあります

キャッチコピー:他人(ヒト)の<破滅>の瞬間に、カメラをもって現れる――

 

エラくストレートなキャッチコピーです。

上手いこと言ってはいないし、情緒的ではないが、

この映画のすべてを端的に表せている。

「<破滅>の瞬間」という言葉は最後に主人公が放つパンチラインでもあるのですが、何よりこのコピーが正しいのはまるで「怪物物のホラー映画のよう」なところです。

例えば以下のホラー映画と似てません??

キャリーをいじめないで! 彼女が泣くと恐しいことが起こる……

『キャリー』1977

目を覚ませナンシー!眠ると奴がやってくる!

エルム街の悪夢1984

 そう、この映画は怪物<盗映人間>目線のアメリカンサイコストーリーなんです。

nightcrawler.gaga.ne.jp

所感

そもそも盗映人間という言葉は数日前に読破したコンビニ人間パスティーシュで思いつきました。

hadahit0.hatenablog.com

人間性というレンズ。それを持った主人公の目線が新しいなーと思ったんですが、コンビニ人間の一年前に公開されたこちらの作品でもそのレンズは使われていましたね。

まあ要するに、サイコパス目線ということなんですが……。

主人公ルイスはパパラッチという仕事に飲み込まれ、その職務のためであれば人間としての禁忌も難なく犯す「盗映人間」。

彼の繰り返す言葉として、「仕事ですから」というものがあります。

その姿は、コンビニ人間のクライマックスで自身が「コンビニ人間だ」とはっきり自覚し、店員でもない店の棚整理や店員指導を行う主人公の姿に、僕の目には重なったのでした。

 

※補足

「仕事として禁忌を犯す」というとナチのゲシュタポなど非人道的なものになぜそのような行為を行えたのかと尋ねると「仕事だったから」と答えたという話が思い浮かびますが、それとルイスの「仕事だったから」はまた別のものを僕は感じます。

ゲシュタポの仕事は人に命令されてのいわば洗脳に近いものですが、ルイスは社長であり、明らかに自分の意志で「生きがい」を感じている。つまり、こいつは天職を見つけてしまったのですから。

 

ストーリー

L.A.の街で仕事もなく金網を盗んで売る生活を送っていたルイス(ジェイク・ギレンホール)。ある日彼は偶然居合わせた事故の現場で、事故や事件のスクープを生業としている映像パパラッチ<ナイトクローラー>と出くわす。その仕事にひかれたルイスは盗んだ自転車と引き換えに得たビデオカメラと無線受信機で自身もまたナイトクローラーになることを目指すのだった。カージャックの被害者の悲惨な姿を映し、テレビ局に持ち込んだルイス。視聴率争いに野心を燃やす女ディレクターニーナ(レネ・ルッソ)にその映像は買い取られることとなった。成功体験に味を占めたルイスは、住所不定の男リック(リズ・アーメッド)をアシスタントとして雇い、更に過激なスクープを撮影しようと画策する。 

 

良かった点①悪は悪のまま

この作品ですが、ルイスが実は人間的な心の内を持っていたとか、善と悪のはざまで逡巡するとか、そういうウェットな展開はありません。

決定的にドライで気持ち悪い<盗映人間>のままです。

そのままどんどん成り上がっていく。

また、この話は終始ルイスの視点から描かれます。つまり、正直ずっと共感はできないままw

それにもかかわらず物語に引き付けられるのは、脚本の力であり、ルイスの怪物性の魅力でもあるのではないでしょうか。

2015年に新たな<怪物>を生み出したという点で、この話は意義があると思うのです。

 

良かった点②覗き見る快感

僕は大学で芸術学を修めました。とはいえ、割と真面目に授業を聴いていた気がするにも関わらずほとんど内容は覚えておらず、これじゃテスト前だけノートを借りていた連中と何ら変わりないのですが……。

とはいえ、その数少ない経験で覚えているのが「窃視の快楽」という話なんですよね。

曰く、絵画・映像等の原初的な快楽として、覗きの快楽というのが分かちがたく存在する。

それすなわちサスペンスなんですが、この映画なんてその快楽の波状攻撃ですよね。つまり、最も原初的な映像の快楽を味わえる映画という意味では、王道なのかもしれません。

 

謎な点①ルイスはなぜニーナを抱いた?

ルイスは物語の中盤でスクープと引き換えに自分よりも一回り年上のニーナを口説き、それが通用しないとなれば脅し、体を差し出させようとします。

最初は「なるほど、権力者に取り入ってもっと儲ける腹だな」と思っていたのですが脅しまでいくとニーナに取り入ることはできません。

ということは、ルイスは本当にニーナを抱きたかったのでしょうか。

正直そんな人間的な欲がルイスにあるとはどうしても思えないのです。

ということは、やはりルイスはニーナに取り入ろうとしていた?

物語の終盤でスクープを持ってきたルイスをニーナはほめそやします。

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ありがとう。

なんていうかすばらしい。本当に素晴らしいわ

お礼を言うのは私よ

 これはつまり抱いたことでやはり心をルイスはつかんでいたということ?

何とも言えない気持ち悪さの残る描写でした。

 

良くない点①ちょっとルイスに都合がよすぎる

ルイスはストーリーの通りどんどん出世していくのですが、1人でカメラ機材も大したことないのにどうしてあんなに出世できるのか疑問でした。

最期の最悪の姦計も、あまりに偶然に頼りすぎている気がします。

ルイスが撃たれてもおかしくない場面でしたからね。

もう少しパパラッチとして出世することに説得力を持たせる描写ができたらなおよかったのではないかと思いました。

ルイスが怪物で物おじしないからというのはもちろん大きな理由ではあると思うのですが。

 

まとめ

それこそ公開当時から気になっていた映画でしたのでこうして約3年越しに見ることができて満足です。非人間(ひとにあらざるもの)として夜を泳ぎたいときにご覧ください。

 

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