ヨゼフとヨクサル 第一話「いつもの夜」
「
毒野郎。
マムシ野郎。
醜い農機具の使い方だ。
」
ヨゼフはそう呟きながら、ヨクサルを
ヨクサルは聞こえたのか、聞こえていないのか。こちらに首を向けてはいるが、いつものあの、中途覚醒している最中のようなボケた薄笑いを顔面に貼り付けている。
この農場の農夫はヨゼフとヨクサルの2人だけ。
できるだけ友愛関係を結ぶことを重視して表面上だけでも愛想よくした方が、仕事中も家事の時間も嫌な思いをせずに済むことはわかっているのだが、ヨゼフの気質がそれを許しはしなかった。
一輪車に収穫できた小麦の束を積み上げて、炒り場へと車輪を転がす。
2.4kmの一本道。
畑と道路を隔てる側溝の脇には50m~60mの感覚で、電柱が突き立てられており、そのテッペンから椰子の実のように突き出したスピーカーからは、名前も知らないカントリーがエンドレスでながれ続けていた。
これもいつものことだ。
午後4時50分になると音楽は徐々に力を失い、午後5時ちょうどに止む。
そうなったらヨゼフとヨクサルは手袋を外して、夕飯の準備にかかる。
日中集めておいた枯葉と木の枝を集めて火をおこし、そこに「事務所」から冷凍された状態で持ってきたスズキをくべる。
冷凍された魚の実から少しずつ氷が剥がれ落ち、脂のとろける香ばしい香りがあたりにただようときには、さすがに始終しかめっつらのヨゼフの頬も緩む。
しかし、そんなときでもヨクサルはいつものあの、呆けた面構えで、面白くもなさそうにただぢっと、魚の死体が<ごちそう>に変わっていく時間を眺めているばかりだった。
★★
「朝だ」
小鳥のさえずりで目が覚め……