心温まる「丘の上の人殺しの家」
みなさんは この すばらしい えほんを しっている でしょうか?
作者は戯曲作家として有名な別役実。
童話作家としては三省堂の教科書にも採用された『空中ブランコ乗りのキキ』が有名ですね。
モントン村の西にある丘のてっぺんに、一軒の小さな家が建っていました。そこに住んでいるのは、ピーボデー、キーボデー、チーボデーの3人兄弟。彼らの職業はなんと“人殺し”。あれこれ工夫して地道に努力しているのですが、ちっともお客が来てくれません。そんなある日のこと、ついにひとりのお婆さんが現れて…。
こちらが話のあらすじです。
これだけでは、この話の素晴らしい点がどこなのかつかめないという方が大半でしょう。
この話の素晴らしい点ひとつめは、「人殺し」という概念の取り扱いです。
主人公三人は人殺しといっても、通常の意味の人殺しではないんですね。
いわば、サービス業としての人殺しなんです。
ジャンルでいうと、お医者さんみたいなものを想像してください。
「え、どういうこと?」と思った方は作品に目を通してみてください。
この話の素晴らしい点ふたつめは、世界観です。
絵本とは、広くジャンルで見ればファンタジーに含まれるものがおおいですから、この世界観が非常に重要です。
この作品では、登場人物一人一人に、1ページしか出てこない人物も含めて(絵本なのでそういう人が多いですが)、性格設定や背景があるんですね。語られないものも含めて。
例えば、物語の中盤で人殺しのセールスを受ける美女、マニアは、明らかに怖い、得体のしれない何かをひそめているのです。
彼女は、おそらく、本来の意味で人殺しです。
しかし、作中で行う行為は「ハエを叩き潰す」ということだけなんですね。
それだけで、恐ろしい人間だとわかる。
それだけの世界観の作りこみと描写があるんですね。
これは、作画であるスズキコージの力も大きいと思います。
(余談ですが、今やっているヤッホーホイホー展、非常に行きたいです。)
この話の素晴らしい点みっつめ、最後のポイントは語り口です。
ふたつめの説明で、ああ、これは怖い絵本なんだな、大人向けの絵本なんだなと思った方もいるかもしれません。
しかし、この作品は紛れもなく子ども向けです。
それを支えるのが語り口と主人公たちの優しい心根。
こどものための絵本とは、読み聞かされる絵本です。
つまり、読み聞かす側のお父さんお母さん、お姉さんやそのほかの大人やそれに類する人々が子どもに向かって読み聞かせても、違和感のないものでなくてはなりません。
この物語ならば、そんな場合に心配することはありません。
タイトルに、人殺しとついているのにです。
眼球をくりぬくための機会が出てくるのにです。
また、主人公たちの心根の優しさは、疑いようもありません。
愛すべきなのです。
以上の理由から、この話はおすすめなのです。
さて、この話は子ども向けといいましたが、勧めるわたしは大人です。
つまり、やはり子ども向けといいつつも、大人の鑑賞に耐えうる深い味わいもあるのです。
大人のみなさんもぜひ図書館や書店で探してみてください。