スリービルボード 8?点 変な話ー! ※ネタバレ
今年のアカデミー賞6部門にノミネートされた話題作。
でもそのどこかしら権威的な響きとはどちらかといえば真逆の印象を与える作品でした。
変な話、、、
8?点
あらすじ
田舎町の通り、迷い込んだものかよほどの田舎者しか通らないその農道(ポスター右下の道)に、3枚の看板が掲げられた。
「レイプされ、殺された」
「なぜ? ウィルビー署長」
「そして、まだ逮捕されない?」
赤い背景に黒文字でデカデカと掲げられたその文言を見た暴力警官ディクソンは、すぐさま看板を取り下げさせようとし、ウィルビー署長に連絡を入れる。
看板を掲げたのはミルドレッド・ヘイズ。彼女の娘は7ヶ月前にレイプされ、殺されたのだった。しかし、犯人はいまだに見つかっていない。その現状に業を煮やした彼女は看板を掲げることにしたのだった。ニュースに取り上げられるなど看板への反応も生じ、事態は少し進展したかのよう。
反対に警官たちは脅しすかして看板を取り下げさせようとする。
ウィルビーにも事情があった。
癌に体が侵され、余命いくばくもないのだ。
所感
『スリービルボード』変な話だなあ-。ブラックコメディ7、ヒューマンドラマ3くらいのバランス。ブラックコメディ濃いめなのにヒューマンドラマの味もちゃんと(しかもクドくなく)するのが巧いねアンタと。アカデミーってこういうの評価されんねや。知らなかった
— 遠縁の親戚 (@miya080800) 2018年2月21日
この話、上記の通り、7割くらいはコメディなんです。それも、監督・脚本マーティン・マクドナーのイギリス的なセンスを生かしたオフビートで意地悪い会話劇が中心な。
「おい、あれ(「ウィルビー署長はどうした?」の看板のこと)名誉棄損にならないのか?」
「なりませんね。問いかけですから」
「畜生。お前はくそ野郎だな」
「ちょっとなんですか、それ」
「問いかけだ」
こういった具合の。
露骨に人種差別をする人物も出てくるし、小人症の人物も出てきて露骨に差別を受けたりもする。
それは主人公だって例外ではないし、最低の差別主義者が善をなすこともある。
そういう人間の多重性がぽんぽこでて来ます。かといって「人間とは一様ではないんですよー」と説教する感じではなく、「人間なんてそんなもんなんだよ。良い人が悪いことをすることもあれば、悪い人がいいことをすることもある」といったスノッブな書き味が強いです。
ただ、その波状攻撃が続くと、ヒューマンドラマの味がゆっくりと沁みてくるのもまた事実。最後にはなんというか、YaYaYaな展開になるのですが、「なんとまあ、人間とはわからんもんで、好きだ嫌いだなんてそいつの一側面に対して思っているだけにすぎないんだな」と僕たちは思うことになります。
良い点①ジャンルレスで独自性の強い話運び
いろいろな感想・評論でいわれているでしょうが、この作品、何せ思ったような展開になりません。
なるほど、こいつは最低のくそ野郎というキャラクターなんだな、と思った人物が意外とかわいい人格を見せたり、人間的成長を遂げたり。
こいつを支持したいと思った人物が、とんだ頑固者に見えてきたり。
またそれが逆転したり。
とはいえ、泣かせようとする展開が急にバイオレンスになったり、という露骨なジャンルまたぎはありません。基本的にはオフビートなノリに満ちたタダの話、がずっと流れます。
良い点②筋が通っている
この話、監督・脚本のマーティン・マクドナーが有名な劇作家であることもあって脚本の完成度に定評があるのですが、それだけあって、よくある投げっぱなし展開や首をかしげる描写がありません。
たとえば、主人公ミルドレッドが歯医者の指にドリルで穴をあけるというエピソードがあります。よくある緩い脚本だとこのくだりは過ぎ去ったお話としてスルーされてしまうのですが、スリービルボードではちゃんと警察に連れいかれる。
ほかにも、看板に火が放たれる展開があるのですが、きちんと燃え上がった看板は主人公が決死の覚悟で消火スプレーをかけても使い物にならなくなる。
そういう点に筋が通っているというのは、意外と大切なことだと思うのです。物語の厚み・信頼性を左右するのは、そういった細部に宿る神なのです。
悪い点①熱中がしずらい
この話は、先が読めません。つまりは、変な話です。
それって面白いってことでもあるのですが、なんか宙ぶらりんな感覚が熱中を妨げるというのもまた事実なのです。
予測不可能な展開といっても
「オオ……! こういう話しね。ということはこうなるのかなー。お、違うのか。おお! なるほどこういう展開にしてきたのか!」
という展開ではなく
「なんじゃこれ、変な話。変だなー。変だ。なるほど、こういう意図か。え、つぎはどうすんの?」
という展開なのです。そのため僕みたいな評論家気取りは予想しづらい。
監督が天才すぎるのかもしれない。