さくらももこさんとのぶみのこと
さくらももこさんがなくなったので、というわけではなく『さくらえび』を読み返した。
いや、嘘だ。さくらももこが死んだから読み返した。
『○○の○○』や『あのころ』3部作ももちろん読んでいるのだけれど、僕はこの本が一番好きである。
さくらももこと友達と息子の日常が基本的に短い文章で場面場面を切り取るように綴られている。
ヒロシが鯉を買ってそのズボラさからすぐに全滅させてしまう話、ポスターにサインをして警備員に怒られた話、歯医者に行く話、息子にさくらももこだとばれないようにする話。
自身が総編集長となって創刊した雑誌『富士山』に掲載していたエッセイだからか、その筆致はほかの記事にもないほどゆるい。
文字数も少なく、「神経衰弱」というエッセイなんて、300字に満たないほどだ。
でも、『ちびまるこちゃん』ファンの目を気にすることもなくただ自分の日常を日記のように書くそのモードが、僕は好きだった。
いわば、メジャーデビューしたバンドがインディーズレーベルから趣味全開で出したアルバムのようなものである。セールスは見込めないが、ファンはそちらのほうが好き。
そんな気持ち、わかるでしょう?
さて、その僕がこよなく愛するさくらももこのエッセイに絵本作家ののぶみさんが登場することに読み返して気が付いた。
のぶみといえば、インターネットではすこぶる評判が悪い。
このありさまを見ても、以下の記事のようなレビューを見ても、とてものぶみさんが僕が好感を抱くような思想を持っているとは思えなかった。
その彼が、『さくらえび』に出てくる「のぶみくん」なのか。
逆デジャヴ。といえばよいのか、ともかく不思議な感覚である。
『さくらえび』のなかで「のぶみくん」がでてくる話は3つ。
『みんなで怒られた話』と『のぶみくんの金券』と『本間さんのダンナさん』。
『みんなで怒られた話』は、前述のポスターにサインをして警備員に怒られた話だ。ここで、サインをするポスターがまさにのぶみの絵本の紹介用のポスターなのである。
『のぶみくんの金券』はそのタイトルに名前が冠されていることからわかる通り、彼がオリジナルの金券を作ってさくらももこに渡す話しだ。この話もとても短い。
『本間さんのダンナさん』でのぶみは当時の彼女に指輪を送ってうれし泣きさせる。
この作品を読んでいた中学自分の僕は、「さくらももこの変な友達の1人」として彼のことをとらえていただけで特に好悪の感情はなかった。
で、今も実はそんなに好きでも嫌いでもないんだけど、伝聞で伝わってくる情報からは「どうもいけすかないやつ」という感じがする。
さくらももこが『さくらえび』で描いた彼は絵本作家らしいちょっと浮世離れした善人。
現在ネット上の評判でわかる彼はちょっとやばい思想を持って特定の層に絵本を売りつける宗教家もどき。
そのいずれも、真実なのだろうな、という気がしている。
『さくらえび』のほかに、彼のことをさくらももこが描いたエッセイはありますか?