『スプライス』(2009)85点 内から外から描く性嫌悪スリラー
※ネタバレがあります
”結合”(スプライス)ってキモいよなーという素朴な発想✖毒親の子どもに対する"支配欲"ってグロいよなーという洞察
上2つの要素でこの映画は成り立っている。
ストーリー
夫婦で遺伝子工学の研究者として一級の技術を持つクライヴ(エイドリアン・ブロディ)とエルサ(サラ・ポーリー)。
2人は様々な動物の遺伝子を結合(スプライス)させてハイブリッド・アニマルを生み出す研究に取り組んでいた。
ジンジャーとフレットという二体のキメラの生成に成功した2人。
エルサは、次は人間のDNAを取り入れたいといい、企業の反対に躊躇しつつも、クライヴもそれに流されていく。
そうして生まれたのが1日ごとに急成長し、ワーム型→哺乳生物型→ヒト型と変化する生物。
D-R-E-N(ドレン、NERD(オタク)の逆読み)と名付けられたそれは、日ごとに結合を繰り返し育っていくのだった。
所感
毒親という言葉は、もともとアメリカの精神医学者が記した書籍『毒になる親』(1989)からきているのだという。
てっきり日本のネット民がゼロから考えたのだと思っていた。
そのルーツはアメリカにあったのだ。
参考:Wikipedia「毒親」
ダーレン・アノロフスキーの『ブラックスワン』(2010)であるとか、毒親(特に母親)ものの映画がこの時期にある程度の
バジェットでとられたのには何か時代性や空気のようなものがあったのかもしれない。
モンスターSFで母性の支配欲を描く。
その点に成功している点が、この作品の一番のユニークな点であろう。
とはいえ、ジャンルはあくまでモンスターホラー。
最終的には結合のキメラが暴れまくるモンスターパニックとして話は閉じられ、毒親の精神的グロさというテーマは浅堀りに終わる。
だけど、そのくらいがキュートなバランスにもなっており、好感が持てるのも、また事実だ。
”結合”(スプライス)ってキモいよなー
とにもかくにもこの発想が原点であり、骨子だ。
最初のスタッフキャプションから内臓に走る血管=結合の象徴がむき出しになっている。
そして、男根というフロイト的にもオールオッケーな結合の象徴。
皮膚がむけた男根といったその様相は、人間を本能的に去勢させてしまうようだ。
靴の裏とかウンコ以上にあの表面だけは舐めたくないな、と多くの人が思うであろう。
そして、ドレン。生まれたてはジンジャー(フレット)をより巨大かつ海洋生物っぽく様相。
それが、ほ乳類チックになり、人間らしくなっていく。その段階で正直”生理的嫌悪感”というだいご味は失われてしまうのだが、それは物語後半で
クライヴとドレンが犯す”過ち”のためには仕方ないだろう。
これらのどれもに通底するのは本能的な意味での”性嫌悪”だ。
命を繋ぐ血管が、命を宿す男根が、交わりが気持ち悪い。
性病科のお医者さんとかならこれらのポイントに対して何も感じないのだろうか?
一緒に見て、意見を伺ってみたいものである。
"母子"ってグロいよなー
前述のとおり、この映画の裏テーマは毒親とその”支配欲”。
どんどん人間らしく育つドレン。
エルサは”彼女”に言葉を教え、化粧を身につけさせ、娘のように扱い始める。
その様子に困惑しつつも追従するしかないクライヴはまさに子をなした父親。
成長するにしたがってクライヴはエルサを個として取り扱えるようになり、
エルサは尻尾の毒矢を切り取り、思い通りにしようとする。
なぜ彼女を作ったのだと思う?
人類のためか? 違うだろ。
普通の子どもだと自由にならないからだろ
1:23:19
クライヴにそう告発するが、その前にアレをやっちゃってるんだから
俯瞰してみればほとんど逆切れだ。
『イレイザーヘッド』(1977)はデビッド・リンチの父になる恐怖が源泉となって作られた作品だというのは
有名な話だが、この作品はモンスターという異化装置を使って父・母の両方を描いているわけだね。
"家族"ってキモいよなー
自分とかぎりなく近しいDNAを持ち、生殖能力を持つ他人。
そう考えると、家族というのはやたら気持ち悪い。
そのポイントが一番顕著なのは、実はクライヴとエルサではなくクライブと弟である。
この2人が奇妙に似ている。最初弟もクローン技術で生み出した何かではないかと思ったほどだ。
また、2人ともモディリアーニの絵画のような面長奥目だから余計に不安をあおられる。
で、より深く考えると、兄弟ってそもそもクローンみたいなもんだよな、という点に思い当たる。
父と母の染色体が交じり合って生まれた自分とめちゃくちゃ近しい別物。
結合とは本質的にそういうことだ。
俺たちが性的なものを隠して普段暮らすのは、その本質から目をそらすためかもしれない。
その洞察に至れただけでも良い映画をみれたかなと思う。
ちょっと後半、鵺やん! みたいな感じだったけど。
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