さらば愛しきアウトロー 85点 男の晩年像、3条件
Filmarks 感想
タイトルの古臭さが良い。原題 THE OLD MAN & THE GUN も、邦題も。
ハリー・ディーン・スタートンの『Lucky』しかり、イーストウッドの『運び屋』しかり、レジェンド盟友の晩年の作品の男像には重なる点があるのかもしれん。
ひとつ、孤独であること。
フォレスト・タッカーにも銀行強盗仲間がいるが友人ではない。強盗チームのバディものとしての側面はない。結局人間は一人で生まれて一人で死んでいく。
ふたつ、不良であること。
ドラマ性を生むためにそうなっている、という側面もあるかもしれないがでも正義側でもいいわけで。銀行強盗、運び屋。独りでできるアウトローな行為に手を染める。ラッキーは犯罪者ではないけど善側ともいえないわな。
みっつ、プレイボーイであること。孤独と矛盾するかもしれないが、老人になっても女を口説くのが名優たちである。まあ、色気があるからこりゃ持てないとむしろ矛盾してるだろ!と制作陣が思ってしまうんだろうなあ。
正直眠たいところもあった。
犯罪シーン・操作シーンに結構な尺を割かれているのに、バディ感や捜査側の苦悩などはほとんど描かれないからだ。銀行強盗は、史実に基づいているからとはいえフォレスト・タッカーという人物について描くための道具でしかないのだ。
「Then he did(そして彼はそうした)」で終わってたら最高だったね。
ストーリー要約
実在の銀行強盗フォレスト・タッカー。13歳で自転車泥棒をしていこう、16回の逮捕歴と、同数の脱獄歴を誇る。すっかり老人となった今のフォレストの仕事は「紳士的な銀行強盗」だ。
銃をちらつかせ、金を奪い、見張りの老人、運転手の老人と逃げ出す。ある日逃走中に出会った同年代のジュエルにフォレストは恋する。
【1】男像について
Filmarks感想を読み返すと要するに「ふるーいおとこっぽーい男」に最終的に落ち着くということか。
それは別に老境に入ったからではなくて昔からそういう役を演じていたその集大成というだけかもしれない。
そうすると、ブラピやトムクルーズの晩年はまた違ったじじいとして描かれるのかな。トム様は生涯アクションしてアクションの中で死にそうだが。
【2】紳士的かあ?
予告編では紳士的な強盗という点がかなり強調されていたのだが、終盤のカーチェースシーンはどこが紳士やねんというべき悪党ぶりであった。
警察に見つかったとみるや公道を暴走し、発見した親子を銃で脅しつけて車を強奪。逃げて逃げてジュエルの家へ向かう。
20代の犯罪者がやるやつである。
思うに、予告編はわかりやすく観客動員を増やすための戦略だな。本当はもっと抒情的な、それこそ『Lucky』に近い話である。
【3】刑事について
フォレストのほかの主人公としてケイシー・アフレック演じる刑事ジョン・ハントが出てくる。最初はこの映画、フォレスト一味がルパンでハントが銭形なんだなと思ったが、彼は銭形ほど刑事の信念がない。最終的には消極的にフォレストを許してしまう。一瞬この男の未来の姿ファフォレスト=同一人物という叙述トリックが仕掛けられているのかと思った。それは大外れだったが、それでもハントはフォレストを人生のモデルとする人間、フォレストとの交流によってフォレストの自由さやポジティブさを取り入れた人間のはずである。ただ、その点はそこまで描かれなかったよなあ。
単純に脚本の描きこみがやや足りない気がする。