もちを引っぺがす
嫁はんが田舎村から一時帰国する日。
俺は寝坊した。
10時前くらいに目が覚める。
朝起きたら枕元のギターを弾くのは、指先の運動と440Hzからなる倍音の振動によって強制的に脳みそを目覚めさせるためである。
昼前に嫁はんは帰ってくる。
そのとき、俺はギターの練習を終え、レンジで温めすぎてぺしゃんこになったもちをせっせと5年前のクリスマスにケンタッキーのおまけでもらった青い皿から引きはがしているところであった。
「なんでアルミホイルの上に敷いて焼かないの!」と嫁はんは胃の腑から声帯までを通り抜ける風の速度と勢いを高めるが、俺にだって俺の事情がある。
トーストで焼くと、うまくもちが温まってくれないのだ。
かといって、アルミホイルをレンジでやるとパチパチと音が鳴ってコワイ。
だから、仕方なくサンタとトナカイが描かれ、ど真ん中に2016と刻印された皿にカリカリになったもちを張り付けているのである。
引きはがして、あんこを直接塗り込み、口の中に豪快にかきいれる。
──うまい。
嫁はんは昼から昔のサークルの友だちと桃鉄大会。
その間、俺はぐっすりとねむってしまった。
ここ数日、深夜2時に寝るペースを続けてきたことがたたったらしい。
夜になる前に嫁はんと家をでて、買い出しと目覚ましを同時にやる。
夜中には『愛の不時着』の9話を見た。
リ・ジョンヒョク中隊長はさすがに女にかまけすぎではないかとあきれるが、話自体はずっと面白い。
あと、7話である。