星空の住人
ぼこぼこのパソコン。
俺が落としたり上からモノを載せたりするので、少しずつへこんでいる。
しかし、不具合は今のところない。
でも、本当は少しずつ、内部で崩壊が始まっているのかもしれない。
でも、わからない。
分からないからこのまま使い続けるのだ。
こういったシュレーディンガーの電化製品的な状況はいろいろなところでおこっているのでは。
俺はいい宿に来た。
なんと一泊5万。
清水の舞台から飛び降りた。
でもまあ、車を安く買ったり結婚式が中止になったりしたことを思えば、まっとうにいいものをまっとうに高い値段で購入できることのなんと気持ちいいことか。
正常な空気の中、屁をこく。
朝はゆったりしようと嫁はんと話していた。
一緒にまずは駅ビルの中のパン屋で朝ごはんを食べる。
さらに、嫁はんは友人の出産祝いのためのラッピングやら梱包やらを購入する。
いいラッピングが見つからないからまあいいや、と一旦帰宅するが、やはり気に入らないのでもう一回買いに行く。
二度手間ではあるが、一度手間で済まそうと考えた結果やりたいことが何一つ実現できない現実だってこの世にはある。
喜んで二度手間を費やそうではないか。
俺はピアノを少し弾いて、家を出る。
今日は美術館の企画展を見てから行こうと話していたのだが、結果としては「もう向かってしまえ」という結論を出すこととなった。
これが年の功である。
無理にアクティブになろうとすると、帰って疲れて損をした気持ちになるのだ。
旅行とは、旅館に泊まることである。
それを前倒しした方がなんぼほどいいものか。
旅館に到着して、部屋に備え付けの半露天風呂に浸かる。
外を眺め、虫の音を聴く。
耳が傾く。
俺は、高級な場所のコスパは悪いと考える人間だ。
しかし、夕食のキノコ、白金豚、バーニャカウダなどのうま味を勘案するに、コスパはとんとんと言わざるを得ない。
手間も時間もかかっている。
もてなされている。
そのまま、星を見る。バングラデシュからやってきたという博士号を持つ店員さんが「星がきれい」ということを教えてくれたのだ。
嫁藩のガイドを聴きながら天然のプラネタリウムを楽しむ。
もちろん、本当はプラネタリウムが人口の星空なのだが、そういう発想についついなってしまうくらい、星空に縁遠い人間である。
しかし、昨夜だけは星空の住人だ。
嫁はんの教養が光り、俺はブーブーとないた。