裸で独りぼっち

マジの日記

FIRE

「後藤さん、俺はもうライターなんてやりたくないんですよ。俺はいわば、FIREしたような状態なんです。FIREっておかしな言葉ですよね? だって、あのトランプ、あの人がテレビに出てた時の有名なセリフが『You are fired.』だっていうじゃないですか。要するに首ってことですよ。ようするにFIREしたいっていうのはクビになりたいってことなんです。でもね、でも」

そういってあいつは首をグルんと回すとボキィィと骨と骨がこすれる音がする。

「今ビジネス書みたいな本買って、お金のきなくさい話学んでFIRE目指す人がほんとに「クビになりたい」って思ってるかどうかって話なんですよ。あいつら絶対そんなこと思ってないんですよw」

小説に「w」を使うのはどうだろうか、と思うがそれも新しい日本語話法としてはありな気がする。正岡子規だってそれまでの流れを否定し、写生を徹底したからこそ歴史に名を残したのだ。

「だから、FIREするにはクビになる、なっても平気な才能が必要なんです。でも、それに耐えられるのも自分に対するアットー的で無根拠な自信が必要で、それってつまり才能だから、、。まねできるもんじゃないんっす。」

殆ど空になっていたグラスがドンと音を立てた。

 

グラスの中は空であり、地上には何年も雨が降らない。

水中都市の冷夏は想像もできないくらいで、我々は滅びゆく現実をただ砂を噛むように暮らす。