映画『声もなく』感想
なんだこの映画? と思うけれど、印象にはずっと残り続けるだろうな。
以前視聴した映画の中では『オーケストラクラス』に近い。
それに、著名人コメントで水道橋博士が触れている『ソナチネ』も確かにこんな視聴後感だったかも。
俺はウェルメイドな作品が好きなので、基本的にこういうの自分から見たりしないんだけど、いい意味でだまして、見せてもらった。見たら三田で記憶に残る光景ではあるから。
上のパンダ夫人の解説というかインタビュー紹介記事がかなり作品の事を知るうえで役に立った。こんなアフィっぽいブログでこんなやつに立つことがあるんだな。
見た目で人を判断してはならないな──とまあ、そういう話。予告を見る限りではなるほど、誘拐した子どもにアウトローが愛情が芽生えて一度は見捨てそうになるけどそれも乗り越えて、最後は涙で感動系か!とこれまた水道橋博士が引き合いに出している『レオン』を思い出しすでにジーンと来てしまうのだが、その期待はすべてビミョーにずらされる。
チョヒの両親は結果として身代金を支払ってくれるし、誘拐犯のグループはテヒンに生き埋めにされた警察官を(素性は知らなかったとはいえ)哀れに思って救うし、テヒンはチョヒに誘拐犯として告発される。
環境のせいか運悪く悪人となってしまった無垢な魂が、少女との触れ合いを通して「正しいこと」に目覚め、それまでの因果により命を落とすが、死をもって永遠にすくわれる──というお決まりのコースをたどっているはずなのだけれど、常にどこかシニカルな視線がおかれていて、こちらを
気持ちよく没入させてくれない。コメディとしては全然面白くなかったのだけれど、とぼけているのに笑えない状況、なのに結構見てられるというのは、なんとなく映画としての純粋度が高いのかもなと感じた。
泣くためでも笑うためでもなく、映画を見る意味は確かにあるので、そこを純粋に抜き出すとしたらこういう映画の作り方もありなのかもしれない。あと、あんまりセットに予算はかかってないと思うんだけど、ウサギのお面とかいちいちルックが世界水準なのはさすが韓国映画だなと思った。
こういう映画はある。
何か起こりそうで起こらなかったり、こちらの思い込みをシニカルな目線で置いたままにしたり。
映画を作る人なんて、人より何倍も「パターン」を見てきているのだから「そこを裏切ってやる」と自然に思うようになるのも当然だ。
だから、そういった意味でフツーというか凡百の作品ともいえなくもないんだけど、映像の美しさでやっぱりひとつ突き抜けている。撮影賞を今すぐあげてほしい。
結局画面に映るもののシニフィアン自体はしみったれていても、カメラというシニフィエを通したものが豊潤であれば、それは世界水準に達するのだ。
映画はレンズだよ、と思う。
繰り返すが、この映画のコメディは全然笑えない。
悲しくて笑えないとかじゃなくて、笑う水準に達していない。
しかし、水準に満たないその空白をカメラでとらえた光景が埋めている。
ちなみに最後の両親とあったときのチョヒの表情がすごいという意見が散見されるが、俺はそのシーンが全く記憶に残っていない。眠っていたのだろうか。
起きてたはずなんだがな。