グダグダな街コンに行って仕事トーークに感動した話②
の続き。
みえとりょうこ。あの人たちは何だったのか。本当に存在していたのか。
今となってはわからない…
ここからは、Xファイルのテーマが常に流れている。脳内で流れている。
あの親子としか思えないのに敬語で話し合う理解しがたい関係性の2人はとにかくどんどん先に行くのだ。
しょうがないから男たちは赤レインコートのみきに話しかけることになる。
食べ歩きが趣味というまさひろは聞いてもいないラーメンうんちくを話す話す……。そんなにラーメンが好きなら1人でラーメン食いに行きゃよかったんだよ、とは思っても誰も言えない。
それに対抗してたけの動物うんちくが放たれる。
「ラクダはこぶに水じゃなくて脂肪が入っているんですよ…!」
知っとる!知っとる!みんな知っとる!!
赤ちゃんが通りかかると、みんな話しかける。お前らなんの婚活教科書を読んだんだ。
いや、これはほんとにみんな子供好きだっただけかもしれない。
でもあんまり、無関係な親子連れの三連休を人生穴だらけの大人たちで汚したくはないのだ。
大学生 のひろきはひどくマトモ。全員に気を使って「どの動物が好きですかー?」とか聞いていたけれど、まったく報われていなかった。
そんな日に限って動物はひどく元気で、ゴリラがバナナを食べ始めたり、サルの親子が毛づくろいを始めたり、なかなか活発で「檻の中はいいなあ」などと考えていると次の檻の端で、りょうことみえが「遅いですね」と言わんばかりにこっちを見ている。
先々行くくせに決定的には離れていかない。
しょうがないので急いで追いつくと「早く行っちゃってすみませんね」と謝るので
あれ、「意外とまともだなこの親子は」と思った次の瞬間にはまた遠くへ2人で行ってしまっている。まるでアクションゲーム中盤の近づいたら瞬間移動して逃げるタイプの敵だ。
そうこうしてる間に雨はやみ、地獄の7人の歩みはぐっと早まり、気づけばキリンもゾウもライオンもフンボルトペンギンも見終えて動物園を一周してしまっていた。
そのとき13時20分。
入園したのが12時ぐらいだったからまだ1時間くらいしか経っていない。
しかしみんな疲れ果てていた。だから、「もう1時間ぐらい早くつくけど2次会の居酒屋へ行こう」というと一も二もなく賛成の声。ここで初めてみえもりょうこも協調性を発揮した。
そういえばそれから、多少動物園を回って仲間意識が芽生えたのかみえが急にヒールで来て途中で転びそうになったというエピソードを話してくれた。それに対し、たけが「フラミンゴはストッキングをはいて輸送されるらしい」と今日一中身のないうんちくで返していたのが動物園での最後の思い出だ。
まさひろとたけをエレベーターで見送り、電車組は地下鉄に乗り込む。
ひろき、俺、みきは並んで座席に座ったが、みえとりょうこは離れてはす向かいの席に座った。
「あーまた結束が弱まった」と一瞬思ったが、まあどうでもよい。
俺はみえやひろきとようやく初対面らしい会話(出身地の話など)を始めた。
そして、気づくと、2人は消えた。
さっきまで座っていた座席がもぬけの殻となっていたのだ。
ハッとして目をあげると、目的地の1つ手前の駅のホームに2人が降り立ち、こっちを見つめている。
「なんか買い物とかあるんですかね」とひろきが言う。「でしょうね」とみき。
しかし、その後、みえとりょうこの行方を、俺は知らない。
もう顔も思い出せない。
(続く)