引っ越し2と30の峠
引っ越しに費やした一日。
家族経営っぽい引っ越し業者にざっと全てを運んでもらう。
他人とコミュニケーションを取りながら重労働をこなし、風のように去っていく。
ちょっとしたサービスとホスピタリティをアピールし、一仕事終えたら息をつく。
そういう人たちに俺は尊敬の念を抱かざるを得ない。
家賃は俺が払うという設定にしてみようか。
人間は意味ないとか、生きててもどうせ死ぬとかそんなことばかり考えていたが、結局それを考え続けるだけの体力もなかったらしい。
俺は人の役に立ちたがっている。
本当に仕事というのはよくできている。
しかし、俺は言われた指示に従って文字を売るという普段の職業を心から愛することができない。
よく「直接笑顔が見られるから」みたいなしゃらくさい理由が、対面系の職種の面接の回答例として使われるのを見たが、結構それは真実の側面を移していてもいて。
社会の連鎖の中で役割を発揮することだけは、少なくとも現世の安寧が続く限りにおいてはいつだって尊いことなのだ。
そういう尊さを発揮して祖父も祖母も父も母も死んでいくのだ。
というか、人類全体が──。
これを皮肉ってバカにできるような何かに俺は熱狂することができるだろうか。
できないのだとすれば、もう30の峠を越えた。
まだ超えてないけど、越えたのと同じだ。