八時半、ガスト、俺、解剖図
「…なんちゅうか、君といると、仕事がすすまんのよ」
言ってしまった。
黒いママチャリのタイヤをシャーと走らせて、コーヒーショップへ向かうは夜の8時半。
俺にできるのは、嫁はんを置き去りにすることだけだ。
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結局、ガストに入ってしまった。
ドリンクバーを注文して、店内中央の席に居座る。
サイズのわりに重くてかなわんノートPCを広げ、下らん原稿を書き進める。
おもしろい原稿は人生をかけなければ書けない。
金を稼ぐ手段であってはならないという信仰などはないし、金という駆動力がなければ俺なんて毎日散歩して屁こいて寝てるだけなのだが、効率と労力は常に矛盾するし、俺はどうも生産管理の方がアーティストよりも向いているようだ。
なんていうと、工場でスキルと目端と努力を持って働いている人に怒られるだろうな。
お昼はカラオケ店でラジオを撮った。
俺は何がしたいのか。
遊ぶように生きたいのか、仕事がしたいのか、尊敬されたいのか、安心したいのか。
多分そのすべてが欲しいので、例え足が8本あるタコだったとしてもこなせないような領域に指を伸ばして、ダヴィンチの人体解剖図のようになっている。
そろそろあったかくなってきた。
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一応原稿を書き上げて、帰路に就いたのは10時半。
家に着くと、嫁はんはふとんにくるまって眠ってしまっていた。
一度抱きしめると「むにゃ」といい、二度抱きしめると「あっちに行け」と言われた。
ひとりで浴槽につかり、俺は眠る。